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【書籍化&コミカライズ】前略母上様 わたくしこの度異世界転生いたしまして、悪役令嬢になりました  作者: 沙夜
本編

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20/94

わたくし、初体験ですわ!4

* * *


「レオ?どうしたんだ?」


「いや……あの令嬢、気になるなと思ってな」


セレナが去った後、レオとフェリクスは廊下を歩きながら小声で話をしていた。


「ほう?女性に興味を持つなんて、珍しいな」


「はっ!そういう意味じゃない。それに、おまえこそ婚約者以外の女にあれだけ友好的なのも珍しいじゃないか」


からかうような口調のフェリクスに、レオはばっさりと言い切った。


常識的に考えれば、いくら友人とはいえ、一国の王子であるフェリクスに対し、こうも対等に話すことは無礼に当たる。


しかし、当のフェリクスはそれを気にした様子もない。


「……女って、キラキラと無駄に重い装飾品やドレスを身に纏って、香水の匂いをプンプンさせてる奴ばかりだと思ってたけど、そうじゃない奴もいるんだな」


倒れる寸前のところを支えた時、まるで余計な装飾など自分には必要ないとでもいうように、セレナは一粒の宝石すら身に着けてはおらず、とても軽かった。


それに、香水の類の香りなど一切しなかった。


大した身分がないと思われていても、フェリクスの側にいる自分には、女共の獲物を狙うような眼が向けられる。


少し話しただけだが、そんな女共とセレナは全く違う。


すぐに自分の不注意を謝罪し、こちらの謝罪もすんなりと受け入れた。


王子であるフェリクスに対しても、友人の婚約者だからかもしれないが、適切な距離を取りつつ、不快な気持ちにさせないよう配慮していた。


なにより、自分たちに擦り寄る様子が、一切見られなかった。


それに。


「……カフェテリアでの会話も、興味深いものだったな」


そう、悪役令嬢についての話が終わった後、誰も気付いていなかったが、セレナがジュリアやエマと話していた時に、この男も側にいたのだ。


武術試験についての話、令嬢にしては珍しいなと、つい耳が傾いてしまった。


「リュミエール公爵令嬢、ね」


実技試験が楽しみだなと、レオは呟いた。






「それで?セレナの様子はどうだい?」


その日の夜更け、セレナを部屋に送り届けたリュカは、その足でランスロットの待つ執務室へと向かった。


扉を開けると、そこには公爵と公爵夫人、そしてエリオットが勢揃いしていた。


セレナ以外全員集合のこの状況、リュカは泣きたくなった。


「はい。お嬢は、まあ、一応?順調みたいです」


「……もっと具体的に報告してくれるかな?」


そう、ふわっとした答えを返したのだが、ランスロットがそれを許してくれるわけがなかった。


笑顔の奥に見える黒いモノが怖すぎる。


仕方なくリュカはこれまでのセレナの言動、状況、馬鹿王子と女狐の現状を(つぶさ)に話すことにした。


ミアとの勉強会に至るまでの経緯、その内容、ランスロットから助言をもらった台詞の活用、新しくできた友人、そして今日のレオやフェリクスとのことまで。


「……おい、ランスロット」


「うん、なんとなく予想はしていたけれど。想像以上だったね」


兄弟のやりとりに、両親たちもうんうんと頷いた。


「全然悪役令嬢なんてしていないじゃないか!?ランスロットの気色悪い物真似がちっとも活かされていない!」


「エリオット、気色悪いは余計じゃないかい?それに、君は悪役令嬢になることを反対していただろう」


それはそうだが、しかしここまで悪役になれない奴がいるか!?とエリオットは頭を抱えた。


しかも当の本人は悪役令嬢になりきれていると本気で思っているところが謎すぎる。


「まあまあ、オランジュ伯爵令嬢にルノワール侯爵令嬢ね。おふたりとも見る目がおありのようで、私も嬉しいわ。今度私が主催するお茶会には、母君と共にぜひ出席して頂きたいわね」


「うむ、父親たちも悪い人間ではない。今度の会議で同じテーブルにつくはずだ、挨拶くらいはしておこう」


そして公爵夫妻もまた、親馬鹿全開でセレナの新しくできた友人を歓迎しようとしている。


なぜ誰も疑問に思わないんだ!?と口をぱくぱくと開閉しているエリオットを、リュカは同情たっぷりの目で見つめていた。


この公爵家で普通の感性を持っているのは、次男だけだったのだなと。


「しかし、見逃せない点がひとつだけある」


そこへ、真剣な瞳でランスロットが声を上げた。


「セザンヌの第三王子とその友人、アングラードといったか?」


リュカはただ単に、レオとセレナがぶつかってフェリクスともたまたま出くわした、くらいにしか報告していなかったのだが、ランスロットは見逃さなかった。


そしてそれは、エリオットも同じだった。


「そ、そうだ!そいつら、まさかとは思うが、セレナに惚れたりはしていないだろうな!?」


「いえ、第三王子がジュリア嬢の婚約者ということで、少し挨拶しただけです。アングラード様も、大して気にしていない様子でした」


「気に留めないとは、それはそれで腹が立つな」


どっちだよ、とリュカは思った。


「まあ、セザンヌの王子は理性的な人間だと有名だし、大丈夫だろう。折角セレナにできた友人の婚約者だし、面倒なことにはならないでほしいね。気になるのはレオ・アングラードという男だけれど……」


「王子の友人だといって共に留学してきたらしいな」


真剣な顔で相談する兄弟を、まるで国の有事について話し合っているみたいだなとリュカは思った。


これでセレナが彼を相手にドキドキしていたなんて話をしたら、どうなってしまうのだろう。


恐ろしすぎて、リュカはそれ以上考えないことにした。


「……父上、母上。先程からなにもおっしゃらないのは、なぜですか?」


と、自分達の話に入ってこない両親を不思議に思って、ランスロットが訝しげに聞いた。


そういえばと、エリオットも両親の方を見る。


「ふふ、後できっと分かるわよ」


「不本意だが、今はなにも言えん」


にこにこと笑うだけの母とぶすっとした顔をする父に、兄弟とリュカは首を傾げるのであった。

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