悪役令嬢の第一歩は、お友達を作ることでしたかしら?2
わたくしの挑発に乗ったミアさんと図書室の机にふたり並んで座ると、司書や周りからの鋭い眼差しから開放されました。
ようやく静かにしてくれそうだと思ったのでしょうか、司書にも他の利用者にも、申し訳ないことをしてしまいましたわ。
「で?勉強会っていう口実で、あたしにどんな嫌がらせをしようっていうんです?」
「?いえ、勉強会をするつもりですけれど……」
「え?」
「え?」
わたくしの答えが予想とは違っていたのか、ミアさんが首を傾げてしまいました。
「おかしいわね……性格が豹変したことといい、バグかしら?それとも、もしかして……」
「ミアさん?とりあえず、ペンなどはお持ちでしょうか?」
なにやらブツブツと考えているミアさんにそう声をかけると、胡乱な目つきでじっと見つめられました。
「……ね、あんた、乙女ゲームって知ってます?」
乙女ゲーム?
聞いたことのあるような単語ですが……もしや。
「ええと、どちらがより乙女らしいか競うゲームのことですか?残念ながらそのゲームでは勝敗が見えすぎていて、ちっとも面白くないかと思うのですが……」
「は?そんなわけ……っていうか、ケンカ売ってるんですか?」
「わたくし、見た目もミアさんのように可憐ではありませんし、気の利いた話をしたり殿下を癒やして差し上げたりすることもできませんでしたもの。そんなわたくし程度では、負けが確実ですわ」
「……もういいです。とっとと始めましょう」
やっぱりそんなわけないわよねとミアさんが呟いていましたが、わたくしには意味がよく分かりませんでした。
うしろに控えているリュカはというと、よく勉強会にもっていけたな!と驚いた表情をしています。
ふふん、まだまだ驚くには早いですわよ!
「それで?一体なんの勉強をするんです?言っておきますけど、あんたが突然引っ張ってきたから、あたし教科書もノートも、ペンすらもなにも持ってませんからね」
腹が座ったのか、意外にもミアさんは大人しく席についてくれています。
頬杖をついて、少しばかりはしたない格好ですけれど。
「大丈夫ですわ、ペンはわたくしのものをお貸しいたします。それに、教科書もノートも必要ありません」
にっこりと笑って、昨夜準備しておいたものをゴソゴソとカバンから取り出します。
そこから出てきた分厚い紙の束を見て、ミアさんが顔を引きつらせました。
「わたくし特製の“これで試験はお手の物!ミアさんの弱点克服問題集”ですわ!」
「「はああああ!?」」
なぜか驚愕の声が二種類ありますわと思っていたら、リュカのものでした。
振り向けば、ミアさんと全く同じ顔をしています。
「失礼かとは存じておりますが、少々ミアさんのこれまでの誤答傾向を調べさせて頂きましたの」
悪びれもなく言うわたくしに、ミアさんは呆気にとられています。
「そして苦手分野を中心に、教科ごとの問題集を作らせて頂きました。ええと……『わたくしの貴重な時間を裂きましたので無駄にしないで下さいませね!』」
なんだかお兄様に教えて頂いた言葉と少々違ったような気がしますが……まあ大体同じですわね!
そんなわたくしに、ミアさんは疑いの眼差しを向けてきます。
「な、なんであんたがそんなことを……」
なんでと言われても。
立派な悪役令嬢になるためですとは、流石に言えません。
「そ、それは……『あなた、そんなことも分かりませんの?』」
ぷいっと顔を逸らして誤魔化すような形にはなってしまいましたが、今度は一言一句、違えずに言えましたわ!
悪役令嬢らしく、ぶっきらぼうな言い方もできましたわね!
なかなか良い調子です、着々と悪役令嬢への階段を登ることができていますわね。
ふふふと喜びを隠しきれず頬を緩ませていると、ミアさんがまたブツブツと何事か呟いています。
「まさかのツンデレ……?っていうか、悪役令嬢までヒロインの虜になっちゃうやつ?このゲームって、そんなルートもあったのかしら……?」
よく聞こえませんが、戸惑っていることはよく分かりました。
「さあ、それはひとまず置いておきまして。時間は有限です、早速始めましょう!」
あまり不審に思われても困りますので、お勉強を始めてしまいましょう。
すると、背後のリュカがなにか言いたげな顔をしているのが見えました。
しっかり悪役令嬢らしくやっていると思いますのに、なぜでしょう?
そんな疑問を持ちながらも、わたくし達は勉強会を始めたのです。