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悪役令嬢とはどんなものでしょう?3

最後のお辞儀まで終え、ふうっとひとつ息をつくと、お兄様方からなんの反応もないのに気が付きました。


やはり馴染みのない踊りですから、困惑してしまったのかもしれません。


ですが、これが前世わたくしが心を尽くして身につけてきた舞いです。


久方ぶりでかなり粗い部分があったことは否めませんが、思ったよりも体が覚えていてくれました。


いえ、体は別人のものなのでその表現は違いますね。


ええと……覚えていたのは、魂、でしょうか。


とにかくわたくしは、転生しても踊ることが好きだということが分かりました。


実は全然踊れないのではないかと、少し不安だったのですが、杞憂でしたわね。


社交ダンスの方も、日本舞踊ほどは踊れないでしょうが、ひょっとしたら練習を積み重ねることで好きになれるかもしれませんね。


「セレナ、君は……」


そんなことを考えていると、今まで黙って硬直していたランスロットお兄様が口を開――――


「すごいな、セレナ!確かに知らない舞踊だったが、とても美しかったぞ!」


……開いたところに、エリオットお兄様ががばっと席を立って拍手喝采、ランスロットお兄様の言葉を遮りわたくしを褒め讃えて下さったのです。


クールで名高い騎士様のこんなお姿を見たら、世のご令嬢方は戸惑いの嵐でしょうねという程に、興奮して。


「あ、ありがとうございます。ですが、やはり社交ダンスとは別物ですので、そう一朝一夕には上達しないと思います。ただ、踊ることが好きなのは変わっていないようですので、これから努力いたしますわ」


ご期待に沿うことはできないかもしれないが努力すると伝えれば、エリオットお兄様が健気だなと涙を流しました。


……少し大袈裟な気もしますが、それだけかわいがって頂けているのだと思えば、胸がほんのり温かくなります。


「……とりあえずその辺で止めておこうか。セレナ、踊りは全く違うものだけれど、リズム感や魅せ方はとても素晴らしいと思うから、練習すればきっと上手くなるよ」


「本当ですの!?ランスロットお兄様にそう言って頂けると、少し自信が持てそうですわ。わたくし、精一杯頑張ります!あら?そういえば先程……」


ランスロットお兄様がなにか言いかけていたような気がしたのですが、なんでもないよと話を逸らされてしまいました。


異世界の文化に驚いただけかもしれませんしね、お兄様がそう言うのならば、大したことではないのでしょう。


「では、まずは試験勉強にて悪役を演じながら、ダンスの特訓。そしていずれはダンスでもミアさんを圧倒させるということですわね。わたくし、燃えてきましたわ!」


ひとつ目標ができて、やる気もアップです!


「うん、頑張って。それと、ダンスの練習だけれど、講師を見つけておくよ。そうだ、いつでも相手役になるから、遠慮せずに僕を呼んでくれたら良いからね?」


「おい、抜け駆けするな!セレナ、相手役なら俺に任せてくれ。転びそうになっても、俺ならすぐに支えてやれるからな!」


お兄様方のお申し出は大変ありがたいのですけれど……。


「あの……お仕事は、よろしいんですの?」


練習をするなら、おのずとそれは下校後の夕方や休日の日中になりますよね?


お忙しい立場のおふたりが、そんな時間を取れるでしょうか?


そう疑問を口にすれば、おふたりはさっと顔を逸らしました。


まさか、サボろうとしていた、とか?


お兄様方、お勤めはきちんとしなくてはいけませんことよ?


わたくしがそんな念を込めて見つめますと、お兄様方は気まずそうな表情で退出していかれました。





「お嬢、俺、あんたを尊敬しますわ」


その日の夜、明日の支度を終えたところにリュカがそう呟きました。


なんのことでしょうと首を傾げると、無自覚かよとため息をつかれました。


「あのおふたりに説教できるのなんて、お嬢くらいのもんですよ。あんな追い出されるみたいな顔、珍しくて面白……驚きました」


面白いって言おうとしましたわね、今。


全く、リュカも大概ですよ?


「それにしてもリュカ。お兄様方の豹変ぶりを見てもあまり驚かないところをみると、知っていらしたんですね?」


「あーはい。絶対に(特に貞操を)守れとか、お前だけは何があっても味方になれよと言われてきましたからね。お嬢の知らないところであのおふたりに守られてたってことも、一度や二度じゃありませんよ」


家族に話して以来、こんな風に家族の愛情を感じることが多々あります。


少し前までのわたくしにも教えて差し上げたいですね。


セレナ、あなたは愛されていたのよって。


「ふふっ。それを言うなら、リュカだってわたくしの知らないところで、わたくしのために動いて下さったことがたくさんあるのでしょう?」


「……そりゃ、俺はあんたの護衛兼・侍従ですからね。つか、この間から何度もどうしたんですか」


「それでも。ひとりぼっちだと思っていたわたくしをずっと見守っていてくれたのは、リュカ、あなたですもの。何度感謝を告げても、足りませんわ」


ああ、あの時伝えておけば良かった。


そんな後悔は、わたくし骨身に沁みておりますのよ。


「嬉しいと思ったら、きちんとその場で伝える。今世わたくしが大切にしていることです」


「あっそ。……でもさ、そうやって誰も彼も誑し込むのは止めて下さいね」


まあ、リュカったら。


それはいらぬ心配というやつですわ。


「大丈夫ですわ。お兄様方にも助言を頂きましたし、わたくし立派な悪役令嬢になれそうですもの!そんなわたくしに近付こうとする方など、そうそうおりませんことよ!」


「あー悪役令嬢ね。そーっすね、上手くいくと良いですねー」


胸を張ってえっへんと言い切るわたくしに、リュカは適当に返事をしたのです。


これはおそらく、全然期待していないということでしょうか。


今にみていて下さいね、わたくし必ず成し遂げますから!!

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