魔法のお手紙??
「そういえば、今日学園から手紙が来てたよ」
お父さんは、なんの脈絡もなくそう言った。
今日の朝ごはんは、裏庭で取れたトマト煮込みシチューと、お母さんの得意料理、防御力高めのかた〜いパンだ。
「学園…?ってあの?……なんでうちに?」
お母さんとお父さんのお話は、すっっっっごく興味深くて、とっっっっても気になるけど、大体難しくて分からないことが多いっていう今までの経験から、2人がお話してる間に、今の私の両親について紹介させてもらうね。
まず、毎日美味しいご飯を作ってくれてるお母さんから、彼女の名前は「ネーフェ・プロッティ」怒ると本当におっかない人だけど、普段は落ち着いた雰囲気の美人なお母さん。
腰まで伸びた長い白銀の髪の毛を、飾りもなく模様もないシンプルな棒を使って、綺麗にまとめている。白い長袖のワンピースに、クリーム色のエプロン姿は清潔感ばっちり、清楚!美しい!!
そしてお次はお父さん!彼の名前は「ルアン・プロッティ」いつでもマイペースな魔法オタク仲間。ゆるくパーマがかかった黄土色の髪の毛は、彼が動くたびにもふもふと揺れる。なんかかわいくて、見てると明るい気持ちになる。
彼は、いつも朝ご飯を済ますと、家のすぐ横にある小屋で仕事をはじめる。何の仕事をしているのか、前に聞いたことがあったけど、私が興味を持ったのがよほど嬉しかったのか、全くわからない専門用語を最大限に使ってぺらぺらと話すだけで、内容は全くわからなかった。
私が覚えている限りでは、魔物の体内で作られる魔石の成分を分解して〜とか、魔力を込めた特別な鉱石を加工して〜とか…??
いや、本当に覚えてないんだもん…。お父さん、テンション上がるとオタク特有の早口になるし、あの時の私は、覚えた魔法を使うのが楽しすぎて、お父さんのよくわからない話なんか、右から左に迷うことなく通り過ぎちゃったんだもん!
にしても、私の見た目、この2人のどっちにも似てないんだよなぁ…。
前世の容姿をある程度引き継いでいるのか、白銀の髪のお母さん、黄土色の髪のお父さんと比べて、私の髪の毛の色は真っ黒。せめてもの異世界感の演出なのか、目の色は黄緑色、というなかなか奇抜な色を授かってるけど、それでもお母さんとお父さんのものとは違う。
まあ、そこでいろいろ考えて気に病む、みたいなことは今更ないんだけどね。
「全く…あれも飽きないものね。いい加減、私達のことなんて忘れてくれたっていいのに…。あなたが見て、重要なものじゃなさそうなら、すぐ燃やしてちょうだい」
「そう言うと思って、僕も君の目の届かないところで処理したかったんだけど…。特殊な魔法でもかけてるのか、僕が触れても何もならなくてさ、僕こういうの弱いから、君に見てもらいたくて」
お父さんのその言葉を聞いて、ふと思い出した。そういえば、お父さん。魔力がすごく少なくて〜…みたいな話してたな。
私が毎朝、水やりのために使ってる魔法は、お父さんが教えてくれたものなんだけど、お父さん曰く!あれは初級の簡単な魔法で、魔力をある程度持ってる人なら誰でもできるレベルのものらしい。
でも、お父さんにとってはあれが限界。彼は、その魔力の少なさから、使える魔法も少ない。加えて、魔法自体に興味はあるけど、それよりも、魔力を込めた特別な道具とか、物を介した魔術(?)とかのほうが好きみたいで……
とにかく、魔法についての話には、明るくないってこと。
おかげで、せっかく魔法がある世界に来れたのに、私はまだまだひよっこ魔法使いのままだ。
かと言って、お母さんが詳しいかどうか、私は知らないんだけど…。だってお母さん魔法使わないし。あんなに綺麗で楽しいのに…
2人の大事な話を邪魔しないように、ゆっくりゆっくりご飯を食べてたんだけど、お父さんはどこまで手紙を取りに行ったのか、なかなか帰ってこない。
というか、そろそろ私も、話の輪に入れてくれてもいいんだよ??
シチューを一気に飲み干して、勢いよく顔を上げると、私の考えを察したお母さんは、私のお皿に、何も言わずシチューを注ぎ足した。
私の口を食べ物で塞ごう作戦?…なるほど。受けて立とうじゃないか!!
「おまたせ。このハガキなんだけど、差出人の名前だけで他は何も書いていないんだよね。」
お父さんの言う通り、それはただの一枚のハガキだった。色は燻んだ白。「ハガキ」と呼ぶには少し分厚いのが気になるところかな…?
「…そうね。確かに、ごく少量だけど魔力を感じるわ。でも、私が持ってもなにもならないわね。なんなのかしら?」
にしても、手紙にかける魔法か、、物が持ち主を選ぶ。みたいなやつ。私好きなんだよなぁ…手紙を開けられなくする魔法!!ぜひとも習得したいものだね……
「学園からの通達なんて、しばらくなかったのに、いまさら私にどうしろって言うのよ…」
不機嫌そうなお母さんは、ハガキを机に置いて、その上に手をかざした。
私はすごく驚いた。なぜなら、私は記憶の限りで、彼女が魔法を使っているところ、使おうとしているところを一度として見たことがなかったから。
学園か〜…。そういえば、私、学校とか行かなくていいのかな??
ちょうど一ヵ月前に10歳を迎えたし、いつまでもこのまま家でだらだらするだけも飽きちゃうだろうし?
この世界の一般常識とかはよく知らないけど、教育を受けれる施設くらいはあるよね?前世では7歳になる年から義務教育で学校に通わなきゃだめだったし、そういうのがあるなら、そろそろ話題になってもいいはずだけど…。
いやいや、ここ異世界ですし??ないパターンも全然ありそう!!
私達家族が住んでるこの家も、ご近所さんが森の動物か精霊かしかいない大自然の中だもん。……これはあるわ。
「ルネ・プロッティ様……うそ…、この手紙、ルネ宛だって言いたいの??」
二杯目のシチューをなんとか平らげた私は、魔法の手紙を見るべく、机に身を乗り出したところで、お母さんのその声に、背中を震わせた。
なになに?どうしてそんなに怒ってるの??それに私宛の手紙?学園ってところから?
わかんないわかんない!誰か説明して!!
その後も、お母さんはどうにかして手紙の内容を、開かずに覗き見ようとしてたみたいだけど、どれも失敗に終わっていた。
「う〜ん。誰宛のお手紙なのかわかったけど、肝心な内容までは開かないとわからない…か。ルネ、せっかく君宛の手紙なんだし、開けてみる??」
え?そんな…いいの…??
お母さんは少し不満そうながらも、私がシチューを飲み干すのを待ってくれた。
お父さんはといえば、手紙が開くところを早くみたいんでしょうね。痛いくらいの視線を送ってきている。期待が…期待が重いです。
食事を済ました私に、お母さんは調べていた手紙を、机の上で滑らすようにこちらに寄越した。いざ自分が触るとなると、実は危ないものなんじゃないか、と怖くなってたので、その渡し方はすごく嬉しい。
手紙には、
『ドミニコラ魔法使い育成魔法魔術学園』
とだけ書かれている。
…ん〜??この名前…、つまりそういうこと?!!あるんじゃん学校!!しかも魔法の学校が!!そんなの手紙に魔法がかかってるわけだよ〜!!
というか、これ、罠とかじゃないよね?!触った途端に爆発〜みたいな…!ないよね?普通に怖いよ…?!
まさか私宛の手紙とは思わなかったから、他人事〜って感じでさっきまで話を聞いていたのに…。
今更心配になってお母さんの方を見てみると、彼女は彼女でとても辛そうな顔をしていた。
「お母さん…?」
私の声にお母さんは、はっとして目をぱちぱちとさせた後、いつものように笑った。
「…大丈夫よ。危ないものではないはずだから」
そうだよね?お母さんが色々調べてくれてたみたいだし、大丈夫…大丈夫…!!
そっと目の前に置かれている手紙に手を伸ばした。
それは、私の手が触れた途端、ハガキから姿を変えていく。
まず、私が触れた場所からパチパチと音を立てて焼け焦げていった。炎が一瞬手に当たった気もしたけど、熱さは無かった。不思議な魔法だ。
徐々に色が変わり、最後には一枚の羊皮紙になって、文字が浮かび上がっていた。
『ルネ・プロッティ様、この度をもちまして、ドミニコラ魔法使い育成魔法魔術学園への入学を許可します。』
あ〜、となるほど??
どうやら、私はひよっこ魔法使いから脱出する機会を手に入れてしまったようです。
素敵なおじさま…まだ出てきてないって、ま??
次話登場(予定!!)です。