これぞ異世界スローライフ…!!
異世界転生ものの作品を見る時、私が一番好きなシーン、それは、主人公が初めての魔法を使う瞬間。
だって、手のひらとか何もないところから水とか火が出てくるんだよ?!訳わかんなくない?!!
化学の常識とか、世界の真理とか…そういうのがどうでもよくなっちゃうくらい、とにかくきらきらした景色を見るのが大好きで大好きで、がんばって偉い大人になれば、私も魔法が使えるんだ!って、ちょっと恥ずかしい話だけど、ちょっとだけ信じてた。
結局、そんな夢みたいなことなかったけど…今ならそれが叶えられる!
「私!!魔法が使えるようになりたいです!!日常的に使える簡単な魔法も、自分を護るための強い魔法も、とにかく全部!!!」
私は神様にそう願った。
さすがに全部っていうのは欲張りすぎ…??って思ったけど、せっかくの異世界転生だよ?つまんない遠慮してちゃオタク魂が廃るってもんだよ!!これくらい願わせてほしい!
「分かりました。そうなると…あの世界がいいですね…。では、貴方が多くの魔法を扱えるよう、魔力量の上限を高めにすること、そして、精霊との交流ができるように「つながり」を結んで…」
魔力量……精霊…!そうそう…これこれ!!すごくそれっぽい!!「つながり」っていうのがよく分からないけど、まあ、いずれ分かるよね!
「ありがとうございます!!」
「ええ、では…。貴方の2度目の人生に、神々の加護があらんことを。…今度こそは貴方の思うままの自由な、幸せな人生を祈っています」
美人な神様はそう言うと、自身の額の前で指を組む。眩い光が私の身体を包み込んだ。
そして、この家の子供として、転生が完了してたってわけ…!
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窓を勢いよく開けて、いつものように大きく身を乗り出した。
いい朝だなぁ…。
今は、あちらの世界での春ぐらいになるのかな…?風はまだ少し肌寒いけど、庭の花の匂いや、森から聞こえてくる鳥の声が気持ちいい。
窓の横に取り付けてもらった棚には、私が育てている薬草の鉢が一つ。
育ちすぎて、もう鉢に葉っぱが入りきってないけど、なんせ使う機会がないのでどうしようもない。
これ以上大きくなっても困っちゃうんだけど…お父さんに相談して、鉢を変えてもらおうかな?
とりあえず、ここらへんで、私がこの世界で初めて覚えた魔法を披露しますか!
手のひらをお皿のように繋げて、指先を鉢に近づける。
「水のせいれいよ、かの者にいやしとなるしゅくふくを…」
ジョウロから花に水を与えるように、私の手のひらから透明なきらきらした水が流れ出す。
ルネに生まれ変わってからは毎日やってることなのに、うぅ〜!!!やっぱり上がる〜!!
それに、今、目の前をふよふよと飛び回ってるこの子達の存在も、私の異世界スローライフを楽しむ上で、かかせない存在になっている。
お父さんが言うには、この家を守ってる精霊だってお話で、お父さんにもお母さんにも、きらきら光ってる光の玉くらいにしか見えてないらしい。
この子達の姿形がはっきり見えてる私には、神様の言うとおり、精霊との「つながり」っていうのがちゃんとあるんだろう。
精霊達は、タンポポの綿毛みたいな形をしてる子だったり、羽が4枚もついたタツノオトシゴみたいな形の子だったり…、わかりやすく異世界生物!!みたいな見た目なので、本当にテンションが上がる。
なにかと親切にしてくれるので、ついつい魔法の手伝いのお願いをしてしまうのが申し訳ない…
それと、魔力量の上限?というのがちゃんと高いおかげで、いくら魔法を使っても、全く疲れを感じないし、しんどくなることがない!!
このことについては昔、
「ルネ〜ッッ!!ごはん!!食べないの〜?!」
あっ!すっかり忘れてた!!
急がないと、あのおっかないお母さんに怒られる…!!頭ぐりぐりの刑が執行される前に、ご飯を食べに行こう!
「いま行くからぁ〜!!」
自分の部屋の扉を開けると、すぐ左側にはお父さんとお母さんの部屋があって、部屋の前には短い通路を挟んで、一階へと降りる階段がある。
お母さんはさっきの声色からして、激おこ1歩手前って感じなので、できる限りの時短…!と私はスカートのボタンを止めながら駆け下りた。
「よっよっよっ……うわぁッ!!」
この家の階段は若干螺旋階段状になっていて、そのカーブ部分を軽快に降りていると…ズルっと足元を滑らせてしまった。
ダンダンダンッッ!と大きい音とともに、勢いよくお尻から着地。ルネ選手…減点。
「いっ…………たぁッッ!!!」
音を聞きつけてきたお父さんが心配そんな顔をして、私の顔を両手で引き寄せる。
「ルネ!!大丈夫?!け、怪我は?頭とか、首は打ってないかい…?!…大丈夫??」
私の腕を引っ張ってみたり、首を左右に動かしたりして、外傷がないことを確かめてくれている、ようだけど、痛い……痛いって!!
「もう…。ルネったら、また曲がるところで滑ったんでしょ〜。いいかげん気を付けてくれないと、階段が壊れちゃうわ」
呆れた…、と言わんばかりにため息をつきながら、お母さんが歩いてくる。
洗い物をしていたのか、エプロンで手を拭きながら歩いてくる姿はこれぞ母!という貫禄をかもしだしていて……
てか今、階段が壊れるって言いました??失礼だな?私そんなに重くないし!!…多分!それにいっつも滑ってる訳じゃないし!!
「だ、だって、お母さんがせかすから〜…!」
まだヒリヒリと痛むお尻をさすりながら、立ち上がった。
いつも通りの朝だ。
今日も幸せ異世界スローライフが始まる。