12 魔物屋敷ヨーデル
「ヨーロレイヒー」
「ヨーロレイフォー」
……どこからかの変な叫び声で目が覚める……クロと瑠璃が窓を開け山に向かって叫んでいた。それが木霊し跳ね返ってくる。
そんな目覚めが悪い朝でも、アルプスの朝は清々しい。
清らかな空気を肺いっぱいに吸い込んで、山間から昇ってくる朝日を眺める。小鳥たちが木立の中で囀っている。そんな朝だ。
朝早く御者とともに馬車に乗り、淡雪が残る径を通り、シンデルフリ村に向かう。約2時間の道のりだ。
村に入ると、人がバタバタと倒れている。
魔物にやられたのかと思って、馬車から飛び降り第一村人に声をかける。
「どうしたんだ!? 大丈夫か? 」
村人は、声をかけても死んだようにグッタリとしている。
第一村人が突然目を開けニタッと笑う。
――薄気味悪ッ
なんでも、この村の習慣で、午前と午後に1回死んだふりをするそうだ。
それをすることで、魔物から身を守れるとのこと。あんまり心臓に良くない村である。たまに、観光客が通りかかって、まれに助けに来る人がいると、喩えようもないうれしさを感じるという。
馬車でそのまま轢いてしまいたい。道にバタバタ倒れているので本当に邪魔だ。といって、本当に轢くわけにもいかず、どうしようもないので歩いて行くことにした。
途中出没した魔物は襲ってくれば、サクサクかたずけていく。
村の入り口から2時間、若葉が生えている山を登って行くと山の中腹ぐらいに丸太で作られた「魔物屋敷ヨーデル」を見つけた。屋敷というよりロッジ風の山小屋だ。
そこへ周りを警戒しながら、フォーメーションXで近づく。
このような隊列だ。
美夜 瑠璃
日葵 クロ
紅々李 ショウ
碧衣 蓮月
すると、最初に現れたのが、魔物yageeだ。βが指笛を吹き指揮を執っているらしい。白い羊毛で覆われたyageeはとんでもない群れで怒涛のように襲ってくる。
数えきれない、たぶん300~500頭はいるのではないだろうか?
土煙で後ろの方が見えない。
ドドドドドドドドド……ッ
まっすぐ向かってくるので、すっと横にずれると私たちの脇を通り過ぎて、崖に落ちていった。
……何だったのだろう?
βがピーーッと指笛を鳴らすと、なんと崖をピョンピョン跳ねて上がって登ってくるではないか!
てっきり死んでしまったと思った。さすが、魔物である。
これは、やばいと思い、日葵がβを目掛けて、「落雷!」を炸裂させた。
βが感電して、しびれて動けないようだ。
yageeもなぜかβの真似をしている。
これは、面白いと思って、βを弄ってみる。
まずはクロの漆黒だ。……まわりが見えなくなり、オロオロしている。
yageeも見えているはずなのに定まりなくウロウロしている。
次は蓮月の月光の矢で1本だけβに刺してみる。
βが痛がってピョンピョン跳ねると、ヤギーも跳ねる。
yageeがピョンピョン跳ねて躍っているようだ。
一見、楽しそうに見える。微笑ましい光景だ。
でも魔物だし、意を決して、美夜の火で焼くのはかわいそうなので、最後は瑠璃の水柱だ。水の中でβがもがくとyageeが前足を上げてピョンピョン跳ねる。
あっ! βが失神してしまった。yageeも倒れて寝たふりをしている。
yageeも安らかな眠りに就いたように見える。
美夜が「もういいだろ」っと言って、yageeを丸焼きにしてしまった。
・・・・・・あっ! そっちは寝てるだけだぞ!
遅かった。
yageeに連動しているのか、βも丸焼きになって魔核とドロップアイテム「βの笛」を残し、水泡となって消えた。魔物yageeも魔核とドロップアイテム「マトン」が残った。
試しに、「βの笛」を吹いてみると、どこにいたのか山の上の方から山羊が跳ねながらたくさんやってきて懐かれてしまった。山羊を操ることができるようになったらしい。
(なお、魔物yageeと山羊は違うので申し添えておこう。魔核を持っている山羊がyageeである)
――羊β羊――
それを見かねて、赤いスカートを履いたGray Girlが魔物屋敷「ヨーデル」から出てきた。
暗黒卿YoZZfに股がって乗っている。なんか、熊に股がった金太郎さんみたいだ。図鑑によるとYoZZfは特殊能力を持ち、周囲を暗くするらしい。
YoZZfが「ワン!」と鳴くと、夜になった。
星空が綺麗だ。山の空気は澄んでいて、とても夜空が美しい。
「あれって、アンドロメダ座かな」
?……ってそれだけか? 暗くするとかいうから、クロの漆黒を想定していたぞ。
YoZZfが再び「ワン!」と鳴いた。
太陽がまぶしい昼になった。まぁすごい能力といえば能力だな。寝たい時に眠れるみたいな感じだ。
次にGray Girlが攻撃してくるようだ。YoZZfの上に立ちジャンプした。
どこから出てきたのか分からないが、ブランコに乗ってキックしてきた。
すごく長いブランコでどこから吊るされているのか分からないほど、ブランコのロープが長い。
赤いスカートをひらひらさせ、ブランコに乗って「あははははは~」と楽しそうに笑いながら、縦横無尽に蹴ってくる。
ブランコに乗っているGray Girlには空気抵抗がないのか、はたまたGray Girlが超重いのか、すごい加速だ。裸足なのに、足が火で燃えているように真っ赤になってきた。空気抵抗はあるのだろう。超重いGray Girlということが判明した。
もしあのキックを受けたら、鉄壁の防具をつけているとはいえ、どこに飛んでいくか分からない。
瑠璃の水壁も蹴り突き破って、Gray Girlが超スピードで碧衣を蹴ってきた。が、碧衣が未来視で予測し、脇差の鞘をGray Girlの顔の辺りに投げると、Gray Girlの顔に鞘がビターン!と当たり、Gray Girlがブランコから転げ落ち、もんどり打つ。
YoZZfが寄ってきて、Gray Girlを舐めている。治癒効果があるのもかもしれない。Gray Girlは暗黒卿YoZZfに乗って、泣きながら魔物屋敷ヨーデルに引っ込んでいく。
それを見かねたボスがいよいよお出ましだ。
斧使いOnGと意地悪魔女Lottenが現れた。
OnGはラップを歌いながら斧を頭の上で振り回している。
「ヨーヨー オマエラヨー」
「オノデ キラレテ シヌンダヨー」
「シンデル エンジェル オマエラヨー」
Lottenはため息をつき、嫌々出てきた感じだ。
OnGの斧は周りの樹木を木っ端微塵にしながら、こちらに迫ってくる。
それを見た瑠璃が言った。
「やっとボスのお出ましね。今日は瑠璃ちゃんが紹介するんだから」
――自分にちゃん付けとか――
「ショウと大和撫子美女七変化~、Lip Magic Generations のお出ましよ。
略してL・M・G~」 といって、またシタッとポーズをとった。
OnGは塊り、目を点にしている。頬を風船のように膨らまし顔が赤くなってきた。そして屈んで丸くなり、肩を震わせ腹をかかえて笑っている。
何を思ったのか、美夜がOnGの傍に行きいきなり後頭部を回し蹴りした。
「失礼な! おれのショウがカッコよく決めたんだぞ。拍手しろ!」 美夜は憤慨している。……あの反応は至極当然だと思うぞ。
後頭部を蹴られたOnGはすごい勢いで転がって、――山の傾斜キツいからなぁ――そのまま大木にぶつかって気絶してしまった。
意地悪魔女Lottenはやれやれといった感じで首を振っている。
Lottenは丸い片眼鏡を目にかけ、杖を持ち魔女らしく何かおまじないを唱えている。眼鏡の奥の目がキッと吊り上がる。
……これって、魔法陣?
Lottenが杖で空に絵を描き、大きな魔法陣が完成した。すると、大きな火柱が私たちの周りに立ち上がった。
それが竜巻をなすように私たちを囲みながら狭まってくる。
瑠璃が「水壁!」といって、我々の周りに水の壁を作る。
水と火柱がぶつかり、水蒸気になり雲が出来上がった。
「これは!」……私は素早く、皆に「稲妻」を付与した。
Lottenの片眼鏡が光る。…あれは金属だ。
「せ~の!」
「いなづまぁ~~~!」……チュドドドド~~~ン!
極太の稲妻がLottenへ直撃する。一瞬、稲妻の中に片眼鏡をかけた骸骨が見えた気がした。意地悪魔女Lottenはあっけなく霧散した。
するとOnGが気絶から気がつき、斧を投げ飛ばしながら、スキルを使って攻撃してくる。OnGの魔法は重力攻撃だ。
斧の飛ばした範囲10m四方を重力で押しつぶす魔法スキルだ。
私は素早く蓮月にキスをして「反射」のスキルを与えた。
蓮月が飛んできた斧を蛇腹刀で絡めとり、反射スキルの反動で、魔物屋敷ヨーデルの方に飛ばしていく。
ヨーデルは2階建てだったが、重力で押しつぶされてしまった。
あれだと、Gray GirlやYoZZfも巻き込まれたんじゃないか?
と心配していると、OnGは観念したようにへたへたと座り込んでしまった。
――OnG――
すると、なんと幻の魔法使いCraCraがヨーデルから這い出てきたではないか! 青い服を纏ったなんとも病弱そうな少女の魔物が、腕の力だけで車椅子に座った。魔物だが、白い蝶々のようなリボンを頭につけていてかわいい。
魔物図鑑でもCraCraはどのような攻撃をするのか載っていなかった。
我々は魔力補充グミも食べているが、スキル付与は負荷が大きいようで、私の魔力は切れかかっている。メンバーには個々で対応してもらうしかない。
CraCraは車椅子に乗ったまま、私たちをキッと睨み精神統一している。
我々は次の攻撃に備え身構えた。
すると、CraCraがおもむろに車椅子から立ち上がった。
! ……CraCraが立った!!
それを見てしまった乙女たちは膝から崩れ落ち、号泣している。
私も目から涙がこぼれていた。
「ッ……」――しまった!――これは精神攻撃の一種に違いない!?
でも、この感動はもう抑えられない。涙が止まらないのだ。涙が滝のように流れ出る。今、相手に攻撃されてもまったく身動きできない。身体はなんともないが、精神的ダメージは計り知れなかった。
・・・・・・ 私たちは初めて敗北を味わった。
イギリスの出来事は、逃げ帰ってきたが相手がいたわけではない。敗北とは言えないだろう。今回の場合は違う。
――完敗だ。
さらに CraCraは追い打ちをかけるように、……飛んだ!
――天に向かって――
右手にはGray Girl。左手にはYoZZfがいる。その後からβが追いかけていく。yageeがその周りを囲んでクルクル回っている。
まるで天使に囲まれるように天に召されていった。
感動場面が重なり、コークスクリューパンチとアッパーストレートパンチを同時に脳髄に浴びたような感じだ。
我々はさらに感動と敗北の涙で打ちひしがれその場に突っ伏した。
CraCraが見えなくなり、我に返る。強烈な敗北感を味わいながらも、魔核を拾い集めた。CraCraの魔核はなかったが、Gray GirlとYoZZf、Lottenの魔核はあった。
Gray Girlのドロップアイテムは「ブランコ」、YoZZfは「昼夜逆転のベル」、Lottenは「ニワトリの杖」だった。
アルムOnGは潰れた山小屋もとい魔物屋敷を見て茫然自失している。
落胆しているOnGはそっとしておいた。敵にも涙だ。
最後に、Lottenによって焼かれてしまった(美夜は泣きながらやっていないという)Yageeの肉を食べながら、敗北感と肉の美味しさに涙を流した。
私たちは、初めての敗北に落ち込み、馬車に乗り込んだ。
御者は「そんなこともあるさ」と慰めてくれたが、我々の心の傷は癒えぬままギルド本部に帰っていく……。




