9 藍の神殿
その神殿は、ローマのパンテオンのように白く太い柱がいくつも立ち並んでいた。ただ、屋根はなく柱も風化のためか途中で折れているものがあった。
その中央を進んでいくと、ポセイドーンとトリートーンの彫像が並んで両脇に建っている広場に出た。なぜポセイドーンとトリートーンと分かったかというと、彫像が置いてある台座に名前が書いてあった。……この感じ、前にもあったな。
と思っていると、陸地を囲む湖から飛び出すように魔物が現れた。
ケセランパサランだ。
ケセランパサランは、富士山麓で出会った緑色でなく藍色だ。たぶん、この神殿を守るために出てきたのだろう。
湖の中で、雲丹のようにしていたそれは、次々藍色の地底湖から空中へ浮かび上がってきた。
幾千のもの針から藍色の液体を我々目掛け放ってくる。
瑠璃は「水壁!」と我々の周りに半球を描くように水壁をはる。
液体は、水壁に阻まれ、我々には届かなかったが、跳ね返った液体は、溶かすように神殿を侵食していった。
美夜が上へ飛び上がり、水壁を抜け、「火炎!」を雲丹もといケセランパサランに浴びせる。
ケセランパサランは焼け焦げて落ちていく。ケセランパサランが一瞬怯んだ隙に、槍、薙刀を持つ日葵、紅々李が飛び出し、ケセランパサランの中心めがけ、突き入れる。
続いて蛇腹刀を持つ蓮月が回転するように、ケセランパサランを屠っていく。
碧衣も吹き矢で、クロは手裏剣で、瑠璃は水流で応戦する。
私は、皆が屠った後の上に登っていく魔核を、虫取り網で回収していく。
こんな時のために、伸縮型の網をリュックに入れている。今、偶然出てきたわけではない。人神世界で見たアニメのように、なんでも入る都合の良いポケットがあればいいが、そんなものは有り得ない。
もうすでに、100体は屠ったであろうか、それを過ぎた頃、突然彫像が動き出した。
高さは10mを越すであろうポセイドーンとトリートーンの彫像が我々に襲いかかってきた。
我々の目の前までズシン、ズシンとやってくる。
ポセイドーンとトリートーンは三叉の矛を持っている。
……これは、かなりやばいんじゃないの!?
と思っていたら、突然、瑠璃の前で片膝を付き、膝まづいた。
ポセイドーンとトリートーンの目には涙が浮かんでいた。
ポセイドーンとトリートーンは彫像なので何も言わなかったが、瑠璃が腕を組み大仰に頷いている。
えっ、瑠璃ってそんな偉いの?
瑠璃は、念波で彼らと意思疎通ができるようだ。
ケセランパサランは静かに湖に戻っていく。瑠璃によると
「なんか私、崇められてるみたい。 最初は何が来たのか分からないから様子を見ていたんだって。そしたら、私が「水流」を使った時に水精の水がかかって、「ウンディーネ」の力で、水精であるポセイドーンとトリートーンも動けるようになったみたい。
この神殿を守るために3000年もいたみたいで、そのうち身体が動かなくなったんだって。もう誰も来ないから、このまま風化してしまうんだと思ってたようよ」
――3000年もいたんだ。オレが天使か堕天使やってた頃だな。
「動かしてくれたお礼に、「三叉の鉾」私にくれるって言うの。お兄ちゃん、貰っていいかな?」
「いいんじゃないか。せっかくだし。でもそんなに大きな鉾持てないだろ?」
鉾も10mくらいの大きさがある。
「たぶん、大丈夫」
瑠璃がポセイドーンから差し出された鉾を触ると、瑠璃と同じ背の長けになった。
この鉾は、特殊能力が有り、嵐や津波を引き起こし、万物を木端微塵に砕くことができる代物だそうだ。
ただ、瑠璃の今の魔力や体格だと、そこまで強大ではないらしい。
この鉾は、体格や魔力に比例してスキルが発揮されるようで、瑠璃の体格と魔力なら嵐や津波を起こすことはできないだろう。……たぶん。
瑠璃は、刀で言うと最上大業物「ポセイドーンの鉾」を手に入れたことになる。
最上大業物は私ではまだ作ることはできないので、願ったり叶ったりだ。
鉾を瑠璃に献上すると、ポセイドーンとトリートーンは湖の入り、底に沈むように消えていった。
私の勘だが、この湖も水嵩が増えないところをみると、海に通じているのだろう。舐めてみると、少しだけ塩っぱい。
私たちは、鍾乳洞に上に張り付いているケセランパサランの魔核とドロップアイテム「雲丹の卵」、ケセランパサランの針をできるだけ回収した。
私が皆に肩車してもらったりして虫取り網を最大限伸ばして回収したが、かなり上まで上がってしまった魔核は取れなかった。美夜が龍になれば飛べるので、それでも回収は可能なのだが、私の前では龍になりたくないらしい。
美夜が「火炎!」で焼いた、ケセランパサラン焼きはその場で食べた。
ここに来て雲丹焼きもどきを食べることが出来るとは思わなかったが、誠に美味である。今日も満足したところで、帰る事にする。
――★★★――
宿に帰ってきたが、ケセランパサランの事や「藍の神殿」のことは宿のおじさんには伏せておいた。
神聖な場所のような気もしたし、誰にも侵して欲しくなかったからである。




