第0章 初2日
「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
小野小町 (古今和歌集、百人一首より)
朝日が登ってくると、白い巨塔の最上階にある氷塊でできた梵鐘に光粒が差し込み、多重の虹輪が青黒い雲海に彩りを与える。
ゴーン ゴーーン・・・
重厚な日本らしい鐘の音が静寂を破って木霊し、合掌した腕を解き皆が目を覚ます。見上げると、アンが虹輪の中央から飛んできた。
死んで2日目、また天使見習いのアンの講義である。
「今日は、皆さんのこれからのことをお話しま-す。
皆さんはこれからどうなると思いますか?
初めて死んだ方もいると思うので、よ――く聞いてくださいね。
選択を誤ると大変なことになるかもしれませーん」
見習い天使アンは腰に手をあて、人差し指1本を立てる。
ミニスカに天使の羽をつけている。……なんか色っぽい。
「選択1でーす。 一番多い選択肢ですが、現世で生まれ変わりまーす。
――ただこれは、皆さんが死ぬ前に行ってきたことが反映されまーす。
つまり、善い行いをたくさんした人、努力した人は生まれ変わるともっと良い人生を歩めるかもしれませーん。でも、皆さんはK組です。言わなくても分かりますね。
――でも言っちゃいます。フフ、あまり変わり映えのしない人生でしょう」
中指を立て、指2本目を立てた。
「選択2でーす。 過去に遡りまーす。
……まぁやり直したい人にはいいかもしれませんが、同じ人間にはなれませんし、遡る時間もランダムでーす」
薬指を伸ばし、指3本目を立てた。
「選択3でーす。 現世の人の守護霊をしながら修行をしまーす。
だいたいはあなたの子孫を守ってもらいまーす。
何から守るかって?」
皆、何だろうという顔をしている。
「それはもちろん悪霊でーす」
「地縛霊が多いですが、中には恨み・辛みなどの人間の感情から守らないといけない場合もありまーす。
でも、もちろん霊なので、物理的なことから守ることはできませーん」
――霊と霊は戦えるのかな?
「基本的には話しかけることもできませんし、孤独な戦いとなりま~す。
霊と霊は戦えるかって? 皆さんの心の声は聞こえてますからね~。
ずばり、戦えます。でも~皆さんは霊力弱い方がほとんどですから、簡単に負けちゃいま~す。
だから修行なのでーす。修行して強くなってきてくださいね~
基本的にはその方が亡くなるまで守り続けることになりますが、途中で止めてここに戻ってくることもできまーす。
でも、その場合は修行失敗となり、ペナルティがつきまーす。
見事成功すれば、その年数と成果によって階級が上がりま~す」
――心読まれてしまった。じゃ質問してみようかな。
「先生、ペナルティってどうなるんですか?」
「はい。例えば、今はK組ですが、1年くらいで戻ってくるとP組くらいまで下がる感じかな」
――1年で5段階も下がるとか、とんでもないな。
見習い天使は、小指を伸ばし、4本指を立てた。
「最後の選択4でーす。神との契約により、異世界に行きまーす」
『異世界』……この言葉が出たとき、会場がざわめいた。
「皆さーん。静かにしてくださぁーい!
異世界はたぶんあなた方には未知の世界でーす。
あまりお勧めはできませんし、異世界の神が皆さんを拒否した場合には行くことはできませーん。
何か特殊な能力、現世でオリンピック選手だったとか、とても有名な画家やミュージシャンなどごく限られた方が選ばれやすくなっていまーす。
K組の皆さんは期待しないようにしてくださいね。
なお、落選された場合は、選択3に自動的に回されまーす」
まだ会場は騒めいている。
「この人神世界では、現世に戻ると人間の場合は前世の記憶はなくなりま~す。でもその記憶はなくなったわけではなくて、深層記憶に入っていま~す。ここでの講義も深層記憶に記録されているので、しっかり覚えてくださいね」
――ということは、人間以外の場合は記憶はあるんだ。
「それから皆さんは、初6日までにどれかを選んでくださいね。
何も選べなかった方も、選択3になりまーす」
今日を入れて5日のうちに決めないといけないようだ。
まだ時間はあるし、よく考えて決めることにしよう。
でも人間はともかく、猫やカエルなどの動物はこの講義の内容は理解できるのだろうか?
ふと隣にいる、黒猫「クロ」に聞いてみた。
「ここの説明は、イメージで入ってくるからあまり理解に苦しまないにゃ。
猫族はほとんど人間語のことは解釈してるんだにゃん。
ただ、声帯が違うから話せないだけにゃ。
その点、猫族の言葉は世界共通語だけど、イントネーションの違いがあって猫語を聞き分けるのは人間には困難だにゃん」
声帯が違うから人間語は話せないんじゃなかったのか?
霊界にきた時点で話せるようになったんだろうか。
まぁ、そういうことにしておこう。
あれ? なぜ《《クロ》》って名前が分かったんだろう?
深層記憶だろうか? 天界はそういう場所なのかな。気にしないでおこう。
お読みいただきありがとうございます!
できるだけ、毎朝7時に更新します。
☆彡 ☆彡 ☆彡
前書きの和歌
「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
冒頭にあげた和歌は、古今和歌集や百人一首にも選ばれた有名な小野小町の和歌です。
節目節目で、私が知っている有名な和歌について、紹介していければいいかなと思っています。
あまり物語とは関係ないかもしれませんが、この異世界物語の世界観と関連付けれられると、より面白さが上がるような気がしています。
私なりのこの異世界物語における解釈は、
「いろいろな色の花(女性)があり、いたづら(修行)をしながら年月を重ねていく。私の名声は世にとどろき何でも手に入るようになったけど、恋愛はうまくいかないなぁ」です。
・・・・・
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!
あくまで私のこの物語だけの解釈とご理解していただき、寛容な心で許してやってください。
できれば正しい解釈も載せたかったところですが、著作権に触れる恐れがあるため掲載できません。
正しい解釈が知りたい方は、ネットで簡単に検索できますのでそちらをご覧になってください。
(なお、文筆に関わる著作権は、通常作者の死後50年となっています。小野小町さんは西暦977年(推定)に亡くなっているので引用しても問題ありません)
*以後この物語では、物語の節目や重要な部分で私の好きな和歌を紹介していきたいと思います。
☆彡 ☆彡 ☆彡 の後に、
・和歌
・私の解釈(又は訳)
の順で掲載していきます。
物語の進行とは関係なく、読み飛ばしても差し支えありませんので、和歌に誤ったイメージを持ちたくない方は「☆彡 ☆彡 ☆彡 」の後の「私の解釈」は読まないようにしてください。
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