4 山賊②
魔核を失った温泉タマゴンを、お腹も空いていたし1つ食べてみることにした。殻はかなり丈夫で、魔核を取り除いた穴から刀を入れ、テコの原理で上部だけ割ると、中は半熟で、黄身も壊れず残っていた。
それぞれ、リュックに入っていたスプーンを取り出し食べてみる。
「う! 美味い!」 なんだ! この円やかで奥深い味は――
あの中華屋で食べたピータンより美味しいかも知れない(ピータンはあまり好きじゃないが)。みんな貪るように食べた。結局1人1個食べてしまった。
リュックには残った温泉タマゴンを各自2個入れて持ち帰ることにした。
今日はここまでだ。心身ともに疲れた。でも胃はとても満足している。帰ろう。
帰路に着くと、滔滔と流れてくるスライム川に遮られる。
スライム川はなんと二つに分岐し、中に洲が出来ていた。
その中洲では、あの山賊がその川を堰止めようと踏ん張っていた。
すっかり忘れてたぞ……どうしよう。。。
―― あまりいい加減なことは言うもんじゃないな。この場合どうなるんだろう?
堰止めていたといえば、堰止めていたけど、スライムはただ二つに分かれてまた元のように戻ったに過ぎない。川の流れは止まっていない。しかも私たちは川を2回もジャンプしなければならない。……大したことないけど。
ここは、半分は山賊の功もみてあげなければいけないところかもしれない。
皆と相談し、山賊といえどもまだ冒険者なんだし、とりあえず山賊を連れてギルド会館に行くことにした。
――◇□◇――
山賊には馬車はないから、当然走ってもらう。
「ついてこれなかったら、弟子にしない」と言うと、山賊はお腹もすいているだろうに、必死でついてきた。たぶん馬車で1時間ほどの距離だから20~30kmはあると思う。さすがに馬のスピードではキツイだろうから、人が走るスピードに落とすよう御者に頼んだ。
それでも何がそうさせるのか分からないが、脱落者はいなかった。冒険者をやっているだけあって体力だけはあるのかもしれない。
だからと言って、弟子とか部下にするのは私のポリシーが許さない。
せっかく美女に囲まれて旅してるのに……まぁそれでもせっかくここまで来たんだし、とても臭くなっている身体を洗ってもらおう。
ギルド会館の温泉施設に行ってもらう。
たぶん今日の温泉客はもう入れないだろうな。長年お風呂には入っていなかったみたいだし、お湯もかなり汚れるだろう。
その間に、私たちはギルド会館の鑑定窓口に向かった。温泉タマゴンとその魔核を鑑定してもらったら、なんとドロップアイテム「温泉タマゴン(そのもの)」が1個20万円で魔核は1万円だった。
全部でアイテムは16個、魔核は24個あったので、344万円である。
魔核のポイントはD級で1個25P 全部で400P 1人50P 累計で703Pだ。
しばらくして、温泉から上がってきた山賊を見て驚いた。肌が綺麗になっていることもあるのだろうが、見違えた。
「お頭さんは、髪も長いし、女みたいだな?」
「え。女だよ」 あまり美人ではないが、純朴な顔をしている。
よく見ると、その他の山賊も半数が女性で、半数が男性だった。
馬子にも衣装というか、衣装はボロボロだが洗えば山賊には見えない。
「お頭さんは、名前は?」
「胡桃、山藤 胡桃 です」
「日本から来て、どうして山賊なんてやってるの?」
これまでの経緯を聞かされた。
「実は、私たち落ちこぼれなんです。普通だと20歳までに剣の腕前は上級になるじゃないですか。私たちは中級がほとんどで、初級も何人かいます。落ちこぼれ同士が集まって冒険者になればなんとかなるかなって……日本だと、ほとんど上級だから私たちのいる場所なんてないんです。気後れしちゃうしね」
まぁ日本では教育制度がしっかりしているし、冒険者でなくても腕はほとんどが上級だ。
「それで、中国になけなしのお金を使って渡って来たんだけど、ギルド会館に来たら言葉は分からないし、掲示板見てもチンプンカンプン。通訳雇うお金もないし、まあ冒険者なったんだし、魔物狩りでもしようって話になって北京の外に出たんです。そしたら、最初に来てた(後ろの仲間を指し)山賊に、襲われたんです」
確かに言葉が分からないと、活動するのは厳しいな。
「でも、私たちは10人だったんですが、代表選にして何とか私は勝ったんです。それで、最初に来てた山賊の話を聞くと、私たちと同じような境遇で……。うまく、魔物を倒せる自信もなかったんで、一緒に狩りをすることにしたんです。その後にも、同じような境遇の人が来て、いつのまにかこんな大所帯になってしまったんです」
落ちこぼれが集まったって感じか――少しは同情するけど――
「それで、あなた方を見かけて、同じような境遇かなって思って、…… 若くて弱そうだし、声掛けたら……あなた方は、得物も使わずに私たち山賊を倒してしまったんです」
同じような境遇で声をかけたにしては、本当の山賊のようだったぞ。
それに中国語で話しかけてきたし……
「中国語話していたし、中国語分かるんじゃないのか?」
「それは、チャイナ服着てたし、もしかしたら中国人かなって。もうここに来て2年になるし、片言なら中国語は話せるかな。でも全く、読むことはできない。漢字だから、何となく分かるんだけどさ。何とか今まで冒険者で細々やってきたんだけど、あと3ヶ月で昇格しないと、冒険者も廃業になってしまうんですぅ。山賊だけでは、いつ冒険者が通りかかるか分からないし、やっていけません。お願いです。ぜひ私たちのボスになってください」
胡桃は泣き顔で訴えて来た。
困ったな。事情は分かったけど、こんなに大勢仲間にするとかできないぞ。
「鵜呑みにするわけにはいかないが、だいたいの事情は分かった。でも我々も冒険者の駆け出しに過ぎない。弟子をとるとか、そんなレベルじゃないけど、同郷だし……少しくらいのアドバイスはできるかもしれない。少し、仲間で相談するから、飯でも食べて待っててくれないか。今日の飯代はおごるよ。3時間後またここで会おう」
――◇●□――
3時間 Lip Magic Generations のメンバーで話し合い、結論を出した。
山賊たちは、期待と不安の目で見ている。
「まず、君たちを弟子にすることはできない」……えぇ~と残念がる声が聞こえる。
「そして、山賊業は辞めてもらう」……なんで~と声が聞こえる。
「ただし、一週間だけお前らの教育・修行をしてやる」……1週間で何ができるって声が聞こえる。
「この条件が飲めなければ、ここからすぐ帰ってくれ」
山賊たちは、喧々諤々と話し合いを始めた。
「分かりました。全て受け入れます。よろしくお願いします!」と山賊たちから頭を下げられた。どうせこのままだと廃業するしかないし、とにかく教えてもらおうということになったらしい。
ギルド会館には、会議室、研修室がある。ギルドの目的③は冒険者の治療及び教育と育成である。この山賊の冒険者を教育するという目的で、研修室を1週間借りることができた。
午前中は、美夜が中国語の教育を行った。ついでにL・M・Gのメンバーも教わる。
午後は8班に分かれて、剣術の練習だ。全員上級だし、教え方は慣れている。
教育とは、教え教えられ育てるもので、教え方が上手く、教わる方も意識が違えば(土壇場になれば)身の入り方が違う。
1週間という短期間であればこそ集中でき、みるみる身についていった。…ことにする。
1週間もたつと、簡単な中国語の読み書き、会話ができるようになった。
剣術も上級まではまだまだだが、弱い魔物であればなんなく倒せるであろう。
今までは、弱い魔物でも100人の総がかりで、1日2~3匹だったそうである。胡桃たち山賊は、山賊業を廃業し冒険者を本格的に始める決心がついたようだ。
明日は、いよいよ本番だ。私たちの後をついて来て、魔物を倒してみるようだ。
本当はあまり付いてきて欲しくないんだけどね。
……まあ火鼠ぐらいまでだったらいいかな……




