Prologue 0
俺は負けたのか?
神にも悪魔にも騙されたか!?
――こんな不毛な戦いをいつまで――
女神たちが集まってくる…… キスをしてきた
――溶けるように――
誰と? …… あれは女神? 天使?
……いや悪魔だったかもしれない
みんな
ありがとう
さようならだ
『 封印 』 キスをしてきた者に次々と封印を施していく。
落ちていく 地球≪テラ≫へ
誰だ、お前は!? ―― そうか、お前か ――
いいだろう ―― 永遠に落ちよう ――
――地球≪じごく≫の底まで――
『 愛してる 』
・・・・・・『 愛してる 』・・・・・・
ハッとして、目が覚める。思わず、手を後ろへ …… 黒と白の羽は!? …… あるわけがない。。。
―― 『 愛してる 』 ―― 誰だろう?
微睡から目が覚めた。
夢現、あの顔は・・・どこかで?
現実なのか? まさか ――夢、幻だろう――
『またこの夢か』 ここのところ、毎日この夢で目覚める。
今日も仕事だ。電車で職場まで向かおう。
今日も至って変わらないいつもの日常。
満員電車で揺られ、渋谷駅に着いたら鞄をぶら下げ職場まで歩いていく。
昨夜はワールドカップ出場が決まったとあって、まだ渋谷駅の周りには若者が屯していた。忠犬ハチ公はいつもと同じように、雑多な景色を眺めている。
私は病院で薬剤師をしている至って『平凡』な中肉中背の男性だ。
顔はそんなに悪くはないと思うが、イケメンと言われる程でもない。
頭は大学を出て病院に勤め、患者に薬のことを教えるくらいだから、そんなに悪いわけでもないが、天才と言われる程でもない。
趣味は、音楽と百人一首「かるた」を軽く嗜む程度。
年齢は59歳。もうすぐ定年だ。
家族は妻1人と子供が2人。――愛人はいない。
これも平凡といえば平凡か。
職場に歩いて行く途中、横断歩道を渡っていたら一台の白い乗用車が猛スピードで突っ込んできた。
『危ない!』
そう思った瞬間、私は飛ばされるように横断歩道を転がっていた。
――私は助かったのか?
横断歩道には、小さな黒猫が横たわっていた。
そのすぐ後、さっきの白い乗用車は何台かほかの車に衝突を繰り返したあと、電信柱にぶつかり大破した。
私はその車より、黒猫の方が気になり掬い上げた。
この黒猫に私を飛ばせるほどの力はある訳がない。
傷は全くなかったが、息もしておらず絶命していた。
私はその猫を職場まで持っていき、守衛さんにスコップを借りて病院の裏庭に埋めた。
――きっと、この黒猫が私の身代わりになったんだろう――そんな気がした。
手を合わせ「ありがとう」と、ひとこと言って足早に薬局に向かった。
――◇◇◇ ――
仕事も終わり、朝に救ってもらった猫の墓に向かう。
土を盛り上げただけの猫の墓に売店で買った花を手向た。
『どうぞ安らかに……』
病院から帰る途中、あの横断歩道を見るとまだ事故見聞が進められていた。
それを横目で通り過ぎる。
「 ! クッ…苦しい」――急に胸が苦しく……。ど、どうして?――
胸に手を当て、私はその場に倒れた。
私は救急車で私の勤めている病院に運ばれ、緊急手術をすることになったようだ。
――◆◇◆ ――
この瞬間から私は霊体となり、自分の姿を客観的に見ていた。
病院に着くなり、手術室に運ばれすぐさま電気ショックを受ける。
医師が私の胸に電気パッドを圧し当て
ドン!
ドン!
・・・・・・
・・・・・・
数回行ったが、ダメなようだ。
定年間近ということもあり、それなりの役職に就いていたためか、かなり大騒ぎしている。
自分のことで大騒ぎになるというのは、客観的に見ているとなんかうれしい。
しばらくすると、妻や子供がやってきて号泣している。
『ごめん』 別に悪いことをしてきたつもりはないが、私は妻に謝った。
『子供を頼む』
病院に勤めていることもあるだろうが、あまり死に対しての恐怖はない。
人生およそ60年ともなると、だいたいのことはしてきたし、あまりやり残したことはないつもりだ。
でも、健康にはけっこう気を使っていたし、心臓病は患っていないのに、あの胸に矢が刺さる様な痛みはなんだったんだろう?
――◆◆◆ ――
やがて死を迎える時が来たようだ。
私が日頃お世話になっている医師や看護師、臨床工学士さんが必死になって心肺蘇生をしてくれたようだが、意識は戻らなかったようだ。
『 みんな、ありがとう 』
聞こえないと思うが、私はそれを口にした。
このセリフもどこかで……
家族やスタッフが振り返り、目があった気がした。
――◇◇◇――
私は、身体と精神の糸が切れたように、天界に引き寄せられていった。