学園の天使は実は隣に住んでいてご飯を食べにやってくる
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「うわ、また紬が男振ったって。」
「えーまたぁ?これで何度目よ、あの子告白されすぎでしょ。」
「仕方ないでしょ。だってあの子はーーー
とある学校の休み時間での会話。女子生徒二人は告白話で盛り上がっていた。
彼女たちは談笑のなか、その生徒に視線をうつす。
「いや、何度見ても美人すぎるでしょあの子。神様ってどうしてこうも不平等なのかしらねぇ。
「仕方ないのよ。ようは、選ばれた人間ってことでしょ。」
選ばれた人間。スポーツ、芸術、勉学など様々な分野で頭角を現し、もって生まれた絶大な才能を容赦なくふるう存在。紬と呼ばれる子も選ばれた人間であると認識されているらしい。
彼女においてはその「美貌」が特出していると言っていいだろう。あれは、人の心をかき乱す。目鼻立ちのどれ一つをとってもこの上ない美しさを持ち、流れ出る髪はまるで清らかな川のようである。
「でもさ、紬ってすごく優しいじゃん?もう神が私たちに遣わした天使って感じ。だれにでも優しいし、いっつも笑顔だし。その場にいるだけで、なんか和む感じがしない?」
「分かるー!あの子がいるだけで、クラスの雰囲気がすっごくよくなるよね!もう、ここまでくると嫉妬なんかどっかいっちゃうよ。」
なんと紬という少女は「美貌」だけでなく「性格」まで完璧であるらしい。天正紬。高校2年生である彼女は、周囲の人間から崇められた存在であるようだ。
当然と言うべきか、天正紬の周りにはいつもたくさんの人がいる。美貌、性格に優れた彼女はいわゆるスクールカーストにおいてトップに君臨していると言っても過言ではないだろう。
そんな天正紬がクラスメートに囲まれている中、一人の男ーーー雨宮翔はその騒がしい様子をぼーっと眺めていた。そこに彼の友人が調子よさそうに声をかける。
「おいおい雨宮くんや、雨宮くんや。そんな情熱的に天正さんのことを見つめてどうしたというのかね?惚れてしまったのかい?」
「いや、楽しそうだなって思っただけさ。」
彼の視線の先には、上品に笑っている彼女の姿が見える。
「しっかしすげえよな、あの美しさ。この学校に入学してから、一体何人もの男子に告られたんだろうな。この学校だけでもかなりの数なのに、他校の人からもされたなんて噂あるぞ。」
「流石、天正さんだね。告白したくなる気持ちは分かるよ。すごく綺麗な人だもんね。」
「話を聞く限りじゃ、告白を断る際のセリフは毎回一緒なんだ。ただ一言、ごめんなさいと。綺麗なお辞儀と一緒にするんだ。すげえよな。断るしぐさも美しいなんてさ。」
「まぁ、告白なんて僕らには縁のない話だよ。それより、もう授業が始まるよ?早く準備しないと。」
*
雨宮翔は学校が終わった後、一人で帰路についた。
「ただいま…」
返ってくる声はない。当然といえば当然か。彼は一人暮らしをしているのだから。
荷物を整理しゆっくりした後、彼は夕食作りの準備に入る。冷蔵庫にある食材は一人暮らしには少し多めの量である。今家にある食材を確認し、悩むこと数分。今日の夕食のメニューが決まった。決まれば、自ずとやるべきことが見えてくる。
まずは、冷蔵庫からベーコンと玉ねぎを取り出し適当な大きさに切っていく。切ったものを、バターと一緒にフライパンで炒め、塩・胡椒を加える。頃合いをみて、ご飯・ケチャップ・ウスターソースを入れる。皿に移した後は、フライパンに油をしき、温度があがったら卵液をいれてかき混ぜる。半熟の状態になったら、さっきの皿にのせる。
そう、今日の夕食はオムライスなのである。時刻はちょうど8時になったところだ。お腹がすく時間だ。
だが、不自然である。彼の食卓には、皿が2つある。彼は一人暮らしのはず。一体だれのために作ったというのだろうか。それは、すぐに明らかとなった。
「おじゃましまーす。」
玄関先から聞こえる声。パタパタと足音を鳴らしながら、彼女ーーー天正紬は姿を現したのだった。
*
本当に偶然だったのである。彼が引っ越してきた部屋の隣に彼女が住んでいたのは。なんやかんやあって、二人は食事を共にするようになったのだが、ここでは割愛させてもらう。そんなことより、今、この場には「天正紬が雨宮翔と食事を共にする」という驚愕の事実が存在している。
「今日は、オムライスなんだ!」
「冷蔵庫の材料的に、オムライスがベストだったんだよ。早く食べないと冷めちゃうぜ。」
「うっ、うん!早く食べよ、早く!」
二人は向かい合って席に着いた後、声を合わせる。
「いただきます」
「いただきますっ!」
二人は、箸を進める。ふんわりとしていて、やわらかい。まるで、雲のなかにいるような感じだ。
「うぁ、美味しい!」
「お口にあって何よりだよ。」
オムライスを堪能した後、彼女が片付けに入った。初めは、すべてやっていた翔であったが、紬が申し訳なく思ってしまい、分担することになった。台所で皿洗いをしている紬に、翔が声をかける。
「なぁ、紬。今日告白を受けたって本当?」
「ん。なんで知ってるの?」
「風の噂だよ。これで何度目だ?」
紬は、視線を少し上に移し、そのきれいな顔の眉間に皺を寄せて、唸りながら答えた。
「分からないなぁ。途中から数えるのやめちゃったもん。」
「分からないぐらい告白されているってことか。すごいな紬様は。」
翔のその発言に、紬は少しむっとして言う。
「告白されるのって結構きついんだよ。断った後の相手の顔を見るのは何度やってもつらいかな。」
「告白される側にも苦悩はあるってことか。なら、何で断るんだ?受け入れればハッピーエンドじゃん。告白してきた人の中にかっこいい人もいたと思うけどなぁ。」
「確かにみんなにイケメンって呼ばれる人はいたかな。でも、私は今付き合いたくないのよ。」
もったいないなぁと翔は思った。だが、同時にうれしくもあった。もし、彼女が他の人と付き合うことになってしまったら、一緒にご飯を共にする機会がなくなってしまうからだ。
*
夕食の片付けが終わった後、二人はテレビを見ながら談笑していた。テレビに映るのはとあるクイズ番組。二つのチームに分かれて行われる対戦形式のものである。そんなテレビを尻目に、他愛のない会話が繰り広げられる。
「なぇ、翔。私たちのこの関係ってなんていうのかな。」
「何だろう。恋人でもないし、友達っていう感じもないし…上手く表せないかな。」
「私にもちょっと難しいかも。でも、なんていうのか分からない関係だけど、、、
「関係だけどなんだよ」
「いや、やっぱ言うのやめた。」
「なんだよ、そこまできたなら言えばいいのにー。」
彼らの住んでいる部屋はまるで、二人だけのお城。あたたかな雰囲気に包まれたお城は、確かに彼らのためだけに存在していた。
翔は分からない。紬が言おうとした発言を。
翔は気づかない。彼女がなぜ、告白を断り続けるのか。
分からない、気づかない。それでも、確かに存在するもの。この二人の関係は、甘酸っぱいみかんの味がする。
「ねぇ、もし私たちの関係が学校にばれたらどうする?」
「勘弁してくれ…。学校中から敵視されそう。」
翔の困ったような顔を見つめて、紬はふふっと笑った。
何年振りかに恋愛ものを書きましたがいかがだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。
評価の程、何卒宜しくお願いします!感想の方も受け付けております。どしどし送ってください。それでは!