6 心の中の英雄
どうして、そんな堂々としていられるんだ?
『逆境に立たされて、逃げられないからだ。自分を奮い立たせるのは、いつも逆境ばかりだ』
怖くないのか?
『そうだ。怖いから、逃げられない。魔物の群れじゃなく、俺の後ろから突き刺さる、期待の眼差しが』
期待が、怖い?
『誰かに望みを捨てられることの重さと、誰かに望まれることの重さは、結局、変わらない。自分一人の心の器で、自分以外の多くの人の心を支えなければいけない。最初から誰にも望まれず、自分のために生きていれば、何も苦しむことは、無かっただろう』
それは、当たり前じゃないのか?
『耳が痛いな。だけど、自分のためだけに生きるというのは、孤独と共に居続けるということでもある。君は、誰かに救われたことはあるのか?』
俺を救った人?
そんなの、決まってる。
俺の目の前で、堂々としてる、あんただよ。
『そうか。俺がか』
なんで、笑ってる?
『いいや、俺は君に、何かを与えられただろうか』
俺に、与えてくれたもの。
夢。くだらなくても、がむしゃらにさせてくれた憧れ。
途切れそうだった、俺の命。未来に続く道へと、誘ってくれた”今”。
今まで自分が生きていたのは、自分のためか、誰かのためか。尽きることの無い疑問。
俺にとって、英雄という存在は、俺の、全てだ。
「お前、これでもまだ、倒れねえのかよ」
「俺は…」
俺はフラフラと、立ったまま。
「負けねぇ…英雄が…」
自分の荒い息が聞こえる。喉の中が渇いては、口を閉じ、唾を飲む。
「いたんだよ…命を…」
首の皮一枚繋がった感覚だ。気を抜けば、あるいは、軽く突き飛ばされただけでも、意識が消し飛びそうだ。
「救われた…だから…今度は」
手元にあった剣を、精一杯の力で握り締め、右手で拾い上げる。
「俺の心の中にある、英雄を、守ってやる…!!救ってくれた俺の命を、今度は、俺自身が繋ぐ…!!」
「見苦しいな。もういい。結果は変わらない。さっさとその腹に刺さったやつ抜いて終わらせてやる。《ドレイン》」
そう男が唱えた。右腕の感覚が、消えた。
「吸収魔法の基本、活力吸収。単体で殺せる威力は出せないが、まあ剣をぶん回されると面倒だから、腕の動きを封じておく」
肩に触れられたタイミングで仕組まれていた。
今の瞬間まで、気付けなかった。
「影魔法使いはこういうさり気なさを装うってのが得意でもある。そろそろお別れた。取り敢えず」
男の腕が、腹のナイフに迫る。
引き抜かれたら、百発百中で、死ぬだろう。
「苦しみながら死んでくれ」
俺の立ち姿はきっと、さぞ頼りないだろう。
どうしようもない瀕死の状態で、放っておいても無様に倒れて。
でも、すぐ近くに、いてくれている気がした。
「氷結魔法」
夢見た、英雄と同じ立ち姿をしている、俺の姿が。
「《ブリザード・タワー》」
掲げた左手から渾身の魔力を、感覚を失った俺の”右腕”に注ぎ込んだ。
氷結の嵐が吹き荒れる。
壁が凍り、地面が凍り、風が凍り、息が凍り、腕が、凍る。
「これが俺の、一撃だぁぁぁぁっ‼‼」
頭上に生まれた氷結の塔は、英雄の剣より遥かに巨大な大剣となって、壁と壁に挟まれた路地裏に、斬撃が走る。
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