5 俺はここで終わるのか
「氷結魔法・《ミストスラスト》!!」
両手で握り締めた剣の刃が全体に冷気を纏い、男目掛けて振り掛かる。
男の頬が冷気に触れて、皮膚に氷が付着した。
「おらっ!おらぁっ!」
縦に横に、剣を振り回しても白く曇った氷結の霧が掠るだけ。このままでは、こちらが先に倒れてしまうのは明白。なら———————
「氷結魔法!!」
バックステップで距離を取り、片方の手を剣から離し、体内の魔力を搔き集める。
突き出した手の奥に現れた氷塊が砕け散って無数の粒となり、高速回転をし始めた。
「《フリーズダスト・キャノン》!!」
強烈な一撃は、男の手元に向かい——————
「チッ」
舌打ちと同時に、取り出したもう一本のナイフで弾かれる。
「魔法反射かよっ!」
その名の通り、魔法を弾く魔法。瞬発性と判断力が必須とされる、扱い難く強力な系統の魔法だ。
しかも、小さなナイフで的の大きい、《フリーズダスト・キャノン》を容易く弾いた。
「ご名答。魔法を弾くのが影魔法に続く俺のもう一つの得意分野だ。お前が最初に繰り出した《フリーズ》に腕が凍らされる前に弾き、動きを止められたフリをして隙を作り、ナイフで刺した。ああそういや、影魔法はまだ使っていなかったな」
自分と相手との実力差が、今の攻防で浮き彫りとなった。腹部の痛みと出血が、俺の心身を蝕んでいく。
こんな薄暗い路地裏で、終わるのか。
光を目指して進んでも、遠くから光が差すだけで、どれだけ突き進んでも辿り着けなかった。
目まぐるしい数の人々が称えるその姿に、俺は憧れたのだろうか。
俺に必要なのは、大勢の歓声じゃなく、たった一人の母さんの笑顔じゃなかったのか。
そうだよ。最初から、あんな夢を抱かなければ。
「限界が近そうだな。そろそろ逝くか。悪いが、もう少しだけ痛い思いをしてくれ。お前には、俺の復讐に付き合ってもらう。最期までな」
意識が、ゆっくり、ゆっくり、暗闇の中に、沈み行く。