4 小さい頃の夢の話
俺、グレイ・ソルドレイには、夢があった。
なんら変わりの無い村で生まれた、一人息子。父はすぐ死んだので兄弟はいない。それでも、恵まれた環境ではないと分かっていても、故郷での生活は幸せだった。
俺はあの日まで、母を養い、これからも変わらない幸せな日々を続けるつもりだった。
だけど、俺は見た。
突拍子も無く現れた、無数の獣の大群を。
それらを前にしてもなお堂々とした、たった一人の男の立ち姿を。
振るわれた大剣の威力を。
弧を描いた切っ先の鋭さを。
俺はその強さの、虜になっていた。
俺はそのとき、夢を抱いた。
大木のようなあの剣を、いつか振ってみたい。
子供染みた、妄想のような理想。でも、その夢が、俺をここまで突き動かした。
そしてようやく行き着いたのが、”挫折”という名の、壁。
「ぐぅっ…!!」
呻き声が溢れる。
激痛が、身体中を駆け巡る。精神に度重なって亀裂が走る。
「うぁぁっ…!!」
紺色だった上着の真ん中から、静かに生暖かい赤色が広がる。
その光景を直視していると、自分の心臓が仕切りに胸を叩いているのが嫌な程分かる。
それでも。
「まっ…だぁっ!!」
俺の心には、痛みよりも、重く響くものがあった。
「負け…たく…ねぇぇぇぇ!!」
現実に、不可能に、絶対的存在に、二度と、屈したくないという意思が、俺にはあった。
刃を、振り抜いた。
投げ捨てた剣の鞘が、薄暗い地面に転がる。