3 俺の命を狙う男
「母さんには示しが付かないな。せめてここでいいもの買って、家で御馳走を作ろう。武器屋のおっちゃん、折角この剣値引いてくれたのに、売るなんて言い出したら殴られ、いや、殴られておこう。全部、俺のせいなんだからな」
俺は、薄暗い家と家の隙間を縫うように進む。
溜息混じりの独り言を呟きながら、路地裏を歩いていた。
公園から武器屋への道のりは、商店街を通り抜けていくルートがあるが、路地裏を通った方が近道だった。
「ちょっといいか」
肩を、掴まれた。
後ろからした声へと振り返る。立っていたのは、黒ずくめの男だった。
黒い靴、全身を覆う黒い衣服、鼻下までを黒い布で覆っている。
有り体に言えば、The・不審者だ。
「お前、グレイ・ソルドレイか?」
「そうだが。あんたは?」
声は低く、その男に右肩は触れられたまま。男の視線は俺の瞳に固定されている。
「俺は、アルファルド。傭兵だ」
「どこがだよ。お前の見た目真っ黒じゃん」
すると男は、腕一本分の距離を挟んで、小声で俺に語り掛ける。
「問題無い。今日はお前を殺しに来た。雇い主からの命令でな。お前からしたら気味の悪いただの不審者かもしれないが、俺が得意とする影魔法、その本領は追跡を逃れることにある。真っ昼間だろうがお構いなし。それが俺の、暗殺者としてのスタイルだ」
同時に、男が黒い服に手を突っ込み、刃物を取り出す様子は見逃さなかった。
「《フリーズ》!!」
氷結魔法を瞬時に発動。
刹那、刃物を握った男の腕が止まる。
そう理解して、肩に置かれた手を払い除けたその時。
「残念」
腹に、ナイフが食い込んでいた。