2 剣を売る決心
「初戦敗退…か…」
真っ昼間の噴水公園。晴れやかな日差しの下、上体と同じ長さの剣を両腕に抱えて、長椅子にぐったりと倒れ込んでいる俺。
「そうなりゃ、この剣も売らなきゃいけなくなる。はぁ。どうすんだよ」
セライア街。ここでの生活に必要になるのは一日銀貨三十枚辺り。故郷の村からここに来て、剣を振って振って、今日という日を待ち続け、満を持して出場した、『魔導戦術大会』。
それは魔法と武道の祭典で、各地で行われる予選で勝ち抜いた上位十名が、毎回異なるルールで行われる最終試合でまとめて決着を付けるシステムとなっている。
まあ最終試合のルールはとっくにパターン化されているが。
優勝者には莫大な賞金、そして、剣聖との立ち合いの権利を得られるらしい。そこで剣聖にも勝てたら、剣聖の血筋を継がせてもらえるらしい。しかし基本的に実力差が激しいので、勝つことはおろか、勝負に挑むことも珍しいものだ。
だが、優勝しなくても賞金は得られる。予選を勝ち進む度に賞金額は増えていき、決勝まで残らなくとも数年街で暮らすには十分な額が手に入る、などと、考えていたのだが。
「賞金だけで生活しようなんて考えがそもそも甘かったのかもな。ある程度の実力があれば、相応の地位と金が入るなんて、大体都合が良すぎる。現実はこれだ。まさか優勝候補の一人、魔術学院の首席と当たるとは」
第一回戦。俺の相手は『シャナ・アーク』。彼女の腰には魔法の効果が刻まれた短剣が下げられていたが、試合中、それが抜かれることは無かった。彼女がやっていたことは、俺に手を向けて、淡々と、たった一種類の中距離攻撃魔法を終始放ち続けるだけだった。
俺の首から下までの肉体が、痛みを失くす程傷付き、沈黙するまで。
もう二度と味わおうとは思えない感覚を、心の中で噛み締める。
剣の柄と鞘を、握り、静かに引いた。刃が覗く。鋼色の輝きが俺の呆れ顔を映している。
「これは運命ってやつだ。現実は甘くない。実力ってのは失敗を繰り返して付いていくもの。俺の剣には、きっと何倍、いや、何十倍近く、時間が足りなかった」
鞘に仕舞った剣を片手で持って、立ち上がる。
歩き出して、口に出した。
「この剣はもう売っちまおう。明日にはもう、村に戻ろう」
諦めの言葉を。
俺の夢との、決別を。
2021/07/27
魔導戦術大会の説明文を加えました。