表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

2 剣を売る決心

「初戦敗退…か…」


 真っ昼間(まっぴるま)の噴水公園。晴れやかな日差しの下、上体と同じ長さの剣を両腕に抱えて、長椅子にぐったりと倒れ込んでいる俺。


「そうなりゃ、この剣も売らなきゃいけなくなる。はぁ。どうすんだよ」


 セライア(がい)。ここでの生活に必要になるのは一日銀貨三十枚辺り。故郷の村からここに来て、剣を振って振って、今日という日を待ち続け、満を持して出場した、『魔導戦術大会』。


 それは魔法と武道の祭典で、各地で行われる予選で勝ち抜いた上位十名が、毎回異なるルールで行われる最終試合でまとめて決着を付けるシステムとなっている。


 まあ最終試合のルールはとっくにパターン化されているが。


 優勝者には莫大な賞金、そして、剣聖との立ち合いの権利を得られるらしい。そこで剣聖にも勝てたら、剣聖の血筋を継がせてもらえるらしい。しかし基本的に実力差が激しいので、勝つことはおろか、勝負に挑むことも珍しいものだ。


 だが、優勝しなくても賞金は得られる。予選を勝ち進む度に賞金額は増えていき、決勝まで残らなくとも数年街で暮らすには十分な額が手に入る、などと、考えていたのだが。


「賞金だけで生活しようなんて考えがそもそも甘かったのかもな。ある程度の実力があれば、相応の地位と金が入るなんて、大体都合が良すぎる。現実はこれだ。まさか優勝候補の一人、魔術学院の首席と当たるとは」


 第一回戦。俺の相手は『シャナ・アーク』。彼女の腰には魔法の効果が刻まれた短剣が下げられていたが、試合中、それが抜かれることは無かった。彼女がやっていたことは、俺に手を向けて、淡々(たんたん)と、たった一種類の中距離攻撃魔法を終始放ち続けるだけだった。


 俺の首から下までの肉体が、痛みを失くす程傷付き、沈黙するまで。


 もう二度と味わおうとは思えない感覚を、心の中で噛み締める。


 剣の(つか)(さや)を、握り、静かに引いた。刃が(のぞ)く。鋼色の輝きが俺の呆れ顔を映している。


「これは運命ってやつだ。現実は甘くない。実力ってのは失敗を繰り返して付いていくもの。俺の剣には、きっと何倍、いや、何十倍近く、時間が足りなかった」


 鞘に仕舞(しま)った剣を片手で持って、立ち上がる。


 歩き出して、口に出した。


「この剣はもう売っちまおう。明日にはもう、村に戻ろう」


 (あきら)めの言葉を。


 俺の夢との、決別を。

2021/07/27

魔導戦術大会の説明文を加えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ