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レインスクレイパー   作者: 布切れ宵月
1/3

#1 雨を穿つ摩天楼

似たような世界観なんてどこにでもある気がするので割に怖い(´・ω・`)


03.08.2080 東京


水は全ての源であり、雨はこの世全ての祖を我々人間に与える神からの贈り物である。



『イオン交換水、20パーセント引き』


『雨水買い取ります』


『河川へのゴミの不法投棄は重大な犯罪です。発見次第ーー』


『合成酒値上げか?旧酒は違法品に』



代わる代わる情報を流し続ける電光掲示板。


ビルに取り付けられた巨大モニターでは『石油とは何か』と言うドキュメンタリー番組が流されていた。


その麓では夜の街、人々が歩道を歩き、車が走り、ホログラムの標識や看板が幻想的に街を彩る。更にはロボットが至る所で人と同じように街を歩いていた。



そしてこの街は高くそびえる摩天楼が至る所に立ち上がっている。



レインスクレイパー。雨(rain)と摩天楼(skyscraper)を合わせたその言葉は実にその存在を表すにふさわしい造語だった。



大気中の水分を窓に結露させビルの下に落とす。


基本根元の付近では雨が降るように水がビルの窓を流れ落ち、場所によっては滝のように轟轟と音を立てている。



この街は常に雨が降っている。


天を削り、まるで空の意志を無視するが如く。



「それは、半世紀前。かの大戦争の時ぃー」


「長くなるのなら切るよ。」


「えー!?こっから面白いのにぃ!」


「、、、」



暗闇に光る青い点。


潤い輝くビルの根元とは打って変わった高層部。天に近いそこは荒れに荒れて、電気水道はおろか、廃墟が如く静けさを極めていた。



そんな中、一人の少女『ハクロ』は何かを探すようにビルの中をさまよっていた。


物静かな様子で、長く伸びた白髪はしっかりと手入れされているのか時にふわっとなびく。


使い古したスニーキングアーマーからは所々正常に機能している証拠である青いLEDが光を出していた。


そしてそれを隠すように黒いマントで体を覆うが、一つだけ隠しきれない獲物がマントをはみ出して強く主張している。



刀、古い江戸時代のような日本刀の形を継承してるとは言い難いが、柄の形は正しくそれである。


鞘の形状は近代的で重厚感を持っている。


黒地に青い光は彼女の服と同じく自身のトレードカラーとなっている。



「まだつかない?そろそろ屋上?」


「屋上まではまだ遠いけど、、依頼の階層までは近いョ。あと2F?」


「了解」



通信の先ではま他別の少女がハクロのナビゲートを行う。



そして廃墟を登る少女はあるものを見つける。


「居た。絶意者ディスコネクター。」


「間違いない?」


「天を仰ぎ、雨の音に狂う、自我のない歩く骸。」



常に上に顔を向け雨の音が強くなると高らかに笑う。


ゾンビ。昔の映画や小説ではそう呼ばれていた存在に類似する存在。



かの大戦以降ごく稀に人が雨に狂い、変貌する。救う手段もなく、発症する原因も不明。


こうなったものを救うためには、、、



「、、、そう。早く楽にしてあげて」


「わかった。ハクロ、エンゲージ」



強く床を蹴り絶意者に向けて突進するハクロ。


相対する彼の者は雨音に喜ぶように狂い笑い踊っている。


自らの死を悟る様子すら見せずに。



瞬間、ハクロは抜刀し絶意者を切り上げた。


踊り笑っていた者はそれにすら気づいていないのか上に飛ばされ、赤い血潮を流しながらもその顔は歪むほどの笑みを浮かべている。


正しく狂気。雨の狂信者と、そう感じさせるような様をハクロに見せつけた。



「、、、南無三。」


刀身についた血を払い納刀。


ハクロはその場を後にする。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『今回はありがとうございました。報酬を振込みましたので確認お願い致します。』



先日のビルとはまた違うビルの中層、高層部にそこそこ近い貧困層が住まうエリアのさらに一室、ハクロの携帯にメールが届いた。


「んー、、?んー、zzz」



だらしなく布団に寝転び下着姿でn度寝を決行する少女。


続いて携帯が別の連絡を受信する。


「¥100‘000.00が振り込まれました。残高ーー」



「んー?、あー、ショーに3万振り込み。」


「ショショ様に¥30‘000.00振り込まれました。」


「寝る。」


「おやすみなさいませ。」



携帯に無機質な挨拶をされ雨音の中再び惰眠を貪るハクロ。


未来の話をすればこの数分後にとある茶髪に叩き起される。



数分後、、、


「ん“?」


「『ん“?』じゃないョ!そんな眠そうな感じしても20時には寝たんでしょ?」


「19時30分。」


「いま12時だョ?寝すぎでしょ?!」


「ん“ッ!」


「そんな機嫌悪くしてもだめ!」



ベットの掛け布団をかけた攻防戦が繰り広げられていた。


布団に潜り込み防戦を仕掛けるのが領主ハクロ。


相対するは先日通信の向こう側にいた少女『ショショ』。縛れるかどうかの長さの茶髪をポニーテールにして領主から土地を奪取しようと奮戦している。



「今日は次のクライアントと会談するのと、最下層に久々に行けるんだから遊びに行くんだョ!行こー!!ハークーロー!!!」


「ん“ん“〜ッ!」



「はぁ、、、グロドリの新作最下層限定で先行発売してるって言ってたのになぁ、、、」


「行く。」


「、、、チョロいんだョ。」



さらに1.5時間後


「グロドリ、マジ、神。」



私服姿でコンビニから出て目的地を目指すハクロとショショ。


「たかが1エナジードリンクになんでそこまで没入するか、、ちょっと、いや、かなり心配だョ。」


「飲めばわかる。これだけあればいい。」



“Glory Energy Drink“略してグロドリ。「栄光を飲み干せ」このフレーズは世界的人気を誇るエナジードリンクの宣伝文句である。


50を超える様々なフレーバーが飲む人全ての興味を常に刺激し、飽きさせることなくエキサイトな毎日を確約している。


しかし、そのカロリー量の高さから2本で1食分と言われ、他の栄養素を見ても食事と何ら変わらない程に豊富に詰め込まれている。


世界中で人気な反面、、世界中の糖尿病、カフェイン中毒、栄養過多のほとんどはこのドリンクであると言われている。



「そりゃ、それだけ飲んで生活してるのを見れてば確かにそうかもだけど、、、やめとくョ。」



ハマったら最後。栄光は1度手にしたら手放せるものじゃない。


「ぷはぁ、、、神。」




『得体は知れてるけど、頼ったら負けな気がする。』


ショショはそう思った。



数分後にはかのクライアントが待つビルへと移動が終わった。どうやら最下層は高級ホテルのようだ。


「へぇー!ここ前テレビで話題になってたホテルだョ!」


「へぇ。」



私来る必要ある?ぐらい興味を持たないハクロと目を輝かせるショショ。


中は高級ホテルの評判に恥じない暖色の照明やシャンデリア。靴越しにもわかるほどふわふわのカーペット。そこら中に浮かぶ案内用ホログラムの投映機は最新型のように見える。



「すっごい、、、こんなとこ入っていいのだろうか、、、」


「さぁ?」


「、、、ほんとに興味なしかョ。」


「シゴト、シゴト、」


「はぁ、わかったョ。」



ショショがフロントに依頼主から貰った招待状を渡すとラウンジへと向かう旨と席番を伝えられ2人はそのままラウンジへと向かった。



「おーぅ。こっちだ。」


ラウンジへと向かうと長髪の黒髪を1本にまとめた30歳ほどの男性が2人を見つけ、呼び止めた。


「げっ。ソーコーじゃないかョ。」


「あれ?ソーコー久しぶり。」



過去の知り合い、そんな雰囲気を出し3人がひとつのテーブルに集まる。彼女達が指示された席のナンバーもそのテーブルで間違っていなかった。


「という事は今回の依頼主ってソーコーなのか?」


「あぁ。」


「まじかョ。」


「、と言いたいところだが。これがまた面倒なことになっている。」



冗談交じりの口調から一転。目の色が変わりシリアスな空気が流れ始める。


「今回の1件、確かにお前たちに依頼する流れは俺が作った。だが、クライアントは別だ。偶にはこうでもいいだろ?」



へへっと笑うソウコウ。だが目は真剣そのもの。コーヒーをすする音ですら重さを増していく。


「じゃあ、単刀直入に言う。ラッカー(麻薬中毒者)だ。それも1人2人みたいな半端じゃない。」


「分隊?小隊?」


「ハクロ、、、まぁいい。お前は昔からそうだからな。それで言うのなら、」



ソウコウはカバンから資料を投げ出す。


「3個小隊で編成された1個中隊。約100人前後と見積もった。」



単なるヤク中が徒党を組んだ人数とは思えないほどの人数。明らかに裏がある。


「100、、いくらなんでも、ラッカーにしては多すぎるョ、、、これ、まさか。」


「そうだ。何かしらウラがあるんだろう。全部が全部ラッカーだとは思えない。バイヤーなりキャリアーが手を貸しているのか、あるいは、、、」


「カンパニー。」


「そういうわけだ。悪いな、お前らの主義とはまた違う依頼になっちまうのは分かってる。だが、」


「いいよ。主義は形。心の色とは別。ソーコーが私たちを頼るのなら、それに答える。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


21:30p.m.



30mほどの高さ、低めのビルの屋上にてハクロの姿はあった。



「感度良好。通信、問題ない。」


「おう。こっちも聞こえるぞ。」


「なんでソーコーがここにいるんだョ!!」


「良いだろ?俺だってハクロの仕事を久々に見たいんだ。それとも俺が嫌いか?」



「ソーコーは、私たちのお父さんだから。好きだよ。」


「ぐぬぬぬ、ハクロはそうやってソーコーを甘やかす!!わかったョ!そこで大人しくしてろ!!!」


「ありがとよハクロ。俺も愛してるぞ〜。」



ぐぬぬぬというショショの唸り声を聴きながら、


「ハクロ、メイクレディ。」


今回の作戦における最後の準備、装備の確認を行う。切羽詰まるようなことがないか、アーマーの給電に異常はないか。常に万全であることこそが任務失敗のリスクを減らすのだと。



「ステンバイ」


準備を終えたハクロはそう言い足に思いっきり力を込める。



「2035、オペレーションスタートだョ」


「テイクオフ!」



そして今夜もレインスクレイパーに一人の少女は落ちていった。



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