告白と異世界
愛ちゃんがなにか言いかけた言葉を止めて、私の話を聞いてる。大きく息を吸って
「もし私が、異世界から来たって言ったら、愛ちゃんは信じてくれるかな?」とつぶやいた。
戸惑った顔してる。私はこの顔を何回、何千回、何万回、数え切れないほど見て来た。何回も何千回も何万回もやり直して、今がある。この機会を逃せば私が託された未来はやってこない……。
愛ちゃんが今暮らしてる世界も、私からすれば異世界。最初は慣れなくて早く元の世界に帰りたいと思っていたけど、私にとって愛ちゃんが大事な存在になるのに時間はかからなかった。
なんども私がミスしてしまったから愛ちゃんの記憶やこの世界に歪みが出てきてしまっていることだけが申し訳ない。造られた世界だとしてもそこにある人物は本物かもしれない。その人たちを私は何度も巻き込んで歪ませてしまった。
愛ちゃんの監視も含め、もう一ミリも選択にミスをしてはいけない。私はあの人から託されたこの任務を果たさなければならない。
そのせいで私という存在が消えてなくなってしまっても、愛ちゃんにとってもあの世界にとっても、とても大切なことだから。絶対に果たしてみせる。
・・・
「異世界……?」
「そう。私はクロノフェルドっていう世界から来たの。こことは全く違う世界で……」
私の反応も待たず話続ける希乃。まさか希乃がふざけるなんて、こんな馬鹿げた話を聞くために私は自分の告白を飲み込んでしまったのか? 異世界? クロノフェルド? すごく真面目に話しているけれど、ここは日本であってこの世界に魔法も異世界の概念も全部アニメの話でしかなくて、そもそも異世界なんて存在しないんだけど……。
「希乃……あのさ……私そういう巫山戯た話嫌いなんだけど……」
「うん。知ってる。愛ちゃんがそういう反応することも、これから言うことも、全部私は知ってる」
「何言って……」
ジッ……と、いつもみたいに可愛い顔でなく少し悲しそうな顔した希乃を見て、それ以上否定するのを止めた。
彼女は本気で異世界から来たのだと思うしかなかった。不本意だけど彼女が言うんだ信じるしかないだろう……。
「愛ちゃん。もう時間がないの。私の話を信じなくてもいい……でも愛ちゃんにはクロノフェルドに戻ってもらう」
「え? 本当に何言ってるの……?」
「この世界は愛ちゃんのために造られた世界なの。本物じゃないんだよ」
一瞬で、たった一瞬で、ズバズバと告白をしてくる希乃。全てが突飛。全てが信じられない。
私が好意を持っていた彼女は本当に今の彼女なのだろうか……。
「愛ちゃんを安全な場所に逃がすために、あの人が用意した仮の世界。だけど愛ちゃんはこの世界に馴染みすぎてしまった」
「待ってよ! この世界が偽物? じゃあお父さんとお母さんは!? 友達はどうなるの? 今までのことは?」
「愛ちゃん、私以外に覚えてる友達いる? 今もお父さんとお母さんの名前覚えてる? 今向かおうとしてた学校の名前は? いつから私と一緒だった?」
「そんな質問ばっかりされても……」
「ゆっくりでもいいよ。絶対に答えられないから。朝食べたトーストだって味してた?」
そこで私はハッとした。食べ物の味、お母さんの顔、お父さんの顔、名前……意識して過去を振り返ろうとしてもなにも思い出せない。希乃と出会ったのは私が幼い頃。どこで出会ったのかまでは思い出せない。幼稚園だっけ? 保育園だっけ? 私が通おうとしてた学校は女子校だけど名前までは知らない。どうやって入学したのかも覚えてない。
お母さんの名前は……稲谷……あれ……? お父さんの名前は……なんだっけ……。
嘘……嘘なの……? 全て? なら私が希乃に対して思ってるこの感情はなに?? これも嘘なの? ずっと好きだと思ってたのに?
「今こうして誰も学校に向かわないの、不思議と思わない?」
「あ……」
あんなに晴れていたのに、気づいたらだんだんと嫌な雲が空を覆ってた。次第にポツポツと雨が降り始めて、一粒の雨が頬を伝った時、私の中でなにかで何かが壊れた。本当は気づいていたのかもしれない。
今日何かが起こるかもしれないーー……と
「私ね……。おかしいなって思ってたの。今日もお母さんがいなくなっちゃうんじゃないかって。お母さんの顔を忘れないように家に一度帰ったはずなのに……ちゃんと顔も見たのにもう思い出せないの」
「愛ちゃん……」
希乃が心配そうに手を伸ばすと、私と希乃を真っ暗な空間が包み込んだ。
―――そこは何もない場所。未来、現在、過去どの時間も存在しない運命を決める場所。
ここでは誰も老いることなく、誰も朽ちることはない。でもそれは運命が決まっていないから―――
「もし私がここで貴方の運命を決めれば、この空間が解けた瞬間、貴方の命はなくなってるかもしれないわよ?」
真っ暗な空間にたたずむ真っ黒な女の人。不敵な笑みを浮かべて私を見下ろす。私はその一瞬にしてこの女の人がただ者ではないことが分かった。
「愛ちゃん!」
希乃が必死に呼ぶ声が聞こえる。でも私から見ても希乃がどこにいるのかわからない。
「私はこの空間に貴方しか呼んでないのだけれど、そう……コバエが紛れ込んでるのね」
女の人が人差し指をスッと下に向けて下すと、私と希乃が一直線に光で結ばれる。
「愛ちゃん!」
駆け寄った希乃が私を抱きしめる。
小さく震えながら抱きしめる彼女の手を私は今後忘れることはないだろう……。
「ごめんね……愛ちゃん……間に合わなかった……」
「え……?」
希乃が私に言ったことは本当のことなのかもしれない。もう少し早く受け入れていれば時間に余裕があったのかもしれない。
「お父様の力は貴女が持っていたのね。探してたのよ。感知もできなくて困ったんだから」
「……っ」
必死に私を庇う希乃。彼女は何者なのだろうか。私の知っている彼女は偽物で私の思いも偽物だった。私は彼女のことを何も知らなかった。それだけが重く胸を突いた。




