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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
972/1102

小話「幸の山」──After



 ヨゾラと別れたものの。

 その後のイグルの人生は波乱万丈だった。

 暫く東部の『掃き溜め』で一時期を過ごし、詐欺や強盗に遭う始末である。

 もっとも、皮肉を含む言葉も素直に受け止めてしまう彼は、詐欺師の金を乞う哀訴にも喜んで応じ、他に苦しむ者には手を差し伸べて苦境を共有した。

 そんな変わり者は次第に気味悪がられて追放されたのだが、その先で近くの領地を治める令嬢と紆余曲折あって親しくなり、彼女の執事として働くこととなる。

 常識と執事業務。

 二つを並行して学習し、三年で物にした。

 令嬢が嫁いだ先の家にも仕えたが、戦争の被害で一家が全滅してしまい、また流浪の旅へ。

 その後も土地や仕事を転々とした。

 ときに魔獣と間違われて。

 ときに宗教の信仰対象とされて。

 ときに国家転覆を企図した間諜として。

 イグルは訪れる土地で幾つもの種類の結末を経験してきた。

 これを波乱万丈と言わずして何と形容するか。

 誰も彼の勘違いとは言えない。

「人界とはここまで厳しいとは」

 人としての半生。

 それを振り返ってイグルは感傷に浸る。

 ――これが人生か、ヨゾラ?

 原点にして目標。

 あの美しい少女に想いを馳せた。

「見つけたっス!」

「む?」

 その思考を遮るように叫び声がする。

 イグルが振り返れば、小柄な魔法使いが立っていた。

 長杖を片手にイグルを睨んでいる。

「アンタがファリニシュっスね!?」

「いや、人違いだ」

「ええ!?」

「俺はファリニシュという名ではない。相手の名を聞く前から決めつけるのは良くないぞ、人違いのときに居たたまれなくなるからな」

「な、何かウゼー!?」

 常識を説く非常識人。

 対するは無垢な対応に欺かれそうになる魔法使い。

 二人は互いに違う思惑で厳しい眼差しを送り合う。

「でも魔力感知したところだと」

「魔力か」

「アンタからは微塵も魔力を感じなかったっス!幻獣の特徴って師匠が言ってたっスよ」

「ふむ、その幻獣?とやらが何かはわからないが、一旦落ち着いた方がいい。きっと気が動転しているから、冷静に相手を見ることができないんだ」

「バカにしてるっスか!?」

「心配してるんだぞ」

 驚くほど会話が噛み合わない。

 弥増す苛立ちにミシェルが奇声を上げる。

 努めて冷静に対処し、相手の鎮静を図るイグルだったが、その対応が却って相手の精神を掻き乱していることなど露知らず真面目に話す。

「それにしても」

「な、何スか」

「そのローブ、魔法使いごっこか?」

「は――――」

「そうだな、君ぐらいの歳だと確かにやりそうだ。うん、俺が昔勤めていた屋敷の令息も同じ頃にやっていたよ」

「あたしは魔法使いっス!」

「うん、憧れるのはいいことだ」

「それに、もうあたしは十歳っス!」

「まだ子供じゃないか」

 言葉を交わすほど。

 激化の一途を辿る少女の様子に困惑した。

 息巻く少女にイグルは眉を八の字にする。

「困ったな」

「は!?」

「俺が君の目的だとして、その後は何をするんだ?」

「え?――捕獲っス」

「ふむ…………え?捕獲?」

 真顔で告げるミシェル。

 イグルは驚愕に口が半開きになる。

「師匠に命令されてるっス」

「捕獲された後は、どうなるんだ」

「師匠に身柄を渡した後は……………さあ?」

「無責任じゃないか」

 批難の色を乗せた声で糾す。

 ミシェルは不敵な笑みを浮かべて肩を竦めた。

「珍生物に人権は無いんスよ」

「たしかに同類に会ったことは無いから、珍しいのかもしれないな」

「ふん、余裕っスね?」

「え、余裕なんて無いが」

 イグルが顔を顰める。

 捕獲されることには是非反対したい。

 人の世をまだ満喫していないイグルにとっては、それは殺生なことである。

 ただミシェルは物言わす素振りは無く、話の通じる類でもないと判断した。

 イグルは深くため息をこぼす。

 その長嘆にミシェルは眉根を寄せた。

「大人しく付いて来るっスか?」

「いや、遠慮したい」

「ふうん」

「何か代案は無いか?俺はただ人の世を生きたいだけなんだ」

「そうっスね――あたしに勝ったら良いっスよ!」

「わかった、それじゃ」

「な――――――!?」

 イグルの姿が霧となって消える。

 一瞬の出来事にミシェルは面食らった。

「ぬぁぁあにぃぃい!?」

 独り絶叫が虚しく空に響く。

「あたしを散々馬鹿にした挙げ句、研究を中断してまで出てきた任務を更に延長させるっスか……………ふふ、ふふふ、ふふふふふふ……………」

 ミシェルが低い声で笑う。

 その奥底には暗く歪な闘志が燃えていた。


「地の果てまで追いかけてやるっス―――――!!」


 ミシェルは魔力感知で追跡する。

 ここに、イグルとミシェルによる空前絶後の追いかけっこが開始されることとなった。


 半年後、ミシェルの使い魔としてイグルがベルソートと面会に向かう途中の街で銀髪の少年と再会したことは、また別の話。





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