小話「重い手」④
重い荷物を背負って。
否、重い体を引き摺って村を出た。
人が増えると重くなるという話が真実味を帯びて感じたのは、自身の体に乗る物理的な重圧のみならず、立つことに疲れたように座り込む子供たちの憔悴した様子もあった。
村を離れて暫く歩く。
すると。
嘘のように体は軽くなった。
タガネは脱力して道脇に腰を下ろす。
「一定範囲があるらしいな」
村の入口から離れて。
約五分程度の距離で重圧から解放された。
やはり村を出たことが解決に繋がっている。
だが。
人の増減が条件とは限らない。
タガネが村へと入る際は何も感じず、子供たちによる指摘を受けて確認のために行動したときに明らかに全身が重くなった。
これは――『重くなる』という自覚。
いや、認識した時点で発生するのだ。
ただの重力の増加現象だとしても意味が不明である。魔法ならば村全体を収める広範囲に展開している時点で消耗は烈しい。
如何に保有する魔素量が莫大な人物であっても長期間の保持は命に関わる。
ならば。
やはりこれは超自然的な魔力現象か。
「まあ、その線が妥当か」
タガネは頬杖を突いて唸った。
任された仕事は、調査のみである。
解決ではないので、情報が収集できただけでも成果だ。
別段ここに思い入れは無い。
報告だけで済ませようと考えた。
「あら、旅人さん?」
「うん?」
「こんにちは、ここへは何用で」
「どうも。 ちと調査でね」
立ち上がろうとして。
割烹着の女性が道の向こう側から歩んで来る。
朗らかに笑む顔にタガネは挨拶を返す。
「調査?」
「やんごとなき方々からのお達しで、激務の後の人間に寄り道がてら見て来いと」
「た、大変ですね」
「ところで」
「はい?」
タガネは女性の方へと振り向く。
「人が潰れるってのは本当かい」
「…………はい」
「安心してくれな。 この土地の秘密を暴いて全員を破滅させるなんざ俺の仕事じゃない」
「そう、ですか」
女性がほっとため息をつく。
タガネは遠くなった村の景色を眺めた。
「いつから、こうなんだ?」
「最初の事件は四年前からです」
「四年…………半年前からと聞いたが」
「…………」
女性が首を横に振る。
レギュームに報告された内容は半年前から続く人間の怪死だった。
報告者はこの地域を含む土地を治める領主。
原因の究明、もしくは情報収集がタガネの役目。
そう捉えてこの村を訪ねた。
半年前という点で、まだ発生時から長期化していないこともあって地方の統治者に任せるべきという判断もあり、消極的な干渉となっている。
だが、四年前――となると。
「村の連中は、何人」
「四十余人」
「不躾な質問だが、これまで何人が死んだ?」
「…………二十一人」
「…………」
タガネは脳内で概算した。
つまり、一人あたり二月程度の間隔がある。
単純な計算であり、実際は致死の条件があり、発生時間の間隔などは定まっていないかもしれない。
「一人目はどう亡くなったんだい?」
「村の子供でした。
友達と喧嘩別れして、家に帰る途中で潰れた状態を発見されました」
「…………」
「最近の人は、街へ働きに出ようとした子が父の反対を押し切って逃げ出そうとして潰れていた、ようです」
「…………ふむ」
タガネは小さく嘆息する。
報告内容に食い違いがある以上、まず事前に得ていた情報よりも現地で調達する物の方が信憑性が高い。
一から収集する苦労を惜しまなければ確実性がある。
一人ひとりの死因――二十一の死に様について調査する必要がある。
圧死の条件は、犠牲者の共通点にある。
「ただなぁ」
タガネは村から視線を外す。
村に入った途端に苦しいほど体が重い。
調査を滞りなく進める間に自分が潰れていてもおかしくは無い。
何より、人の増減から子供が排除行為に出る辺りから、村の人々も村へ入ることを良しとはしないはずである。
こうなれば聞き込みも困難だった。
「さて、どうするかね」




