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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
918/1102

小話「重い手」③



 村へと入るタガネの行く手。

 そこに数人の子供が昂然と立ち塞がった。

 片手には武器と思しき木の枝を携え、歩み寄る来訪者へと厳しい眼差しを向ける。微塵たりとも敵意を隠さない相貌は、子供の顔からあどけなさすら消えて見えるほど険しい。

 数歩の距離を置いて。

 タガネは立ち止まって見下ろす。

 いつもの如く睨めば容易く退散させられる。

 ただ、自分は旅人の態で来ていた。

 安易に村人に嫌われる行為は可能な限り避けて行動しなくては、片手間のような調査といえど作業を円滑に進行できない。

 一つ咳払いをして。

「もし、その小童ども」

「…………」

「ちと今晩泊まる宿を探してんだが」

「…………」

「親切に軒を貸してくれるところを知らんか?」

「…………」

「やれやれ」

 子供はタガネの言葉を黙殺する。

 ただ、そこに村の心証を悪くすることへの恐れや憂いはまるで無い。

 追い払う意地さえ窺える強さがあった。

「おまえさんら、俺に何か?」

「……………」

「話してくれんなら、村の連中に訊く他に無いか」

「――待てよ」

 進み出そうとして。

 そんなタガネを子供の一人が呼び止める。

 集団で頭一つぶん背丈のある少年だった。

 ようやく会話ができると内心で呆れと安堵を綯い交ぜにしつつ、タガネは少年へと振り向く。

 敵意を宿す眼光は変わらない。

 声音にも若干の険がある。

「村に入るな」

「なぜ」

「重くなるからだよ」

「…………重く、なる?」

 意味を量りかねる返答だった。

「どういう意味だい」

「分かんねえ」

「分からないか」

「ただ、人が来る度に重くなるんだ。 だから、村に入って来るなよ」

「…………ふむ」

 先刻の返答と照らし合わせて思考する。

 村へ入ると、何かが重くなる。

 どういう意味かを訊ねた際は、子供も判らないと答えた。だが、『人が増えると』という、『重くなる』条件については把握している。

 そこで。

 タガネは先刻の返答の真意が理解できた。

 条件は判明しているが、そも条件を満たしたことで重くなる原因、いや元凶と呼ぶべき物が分からないということ。

 ともかく。

 重くなる現象についての危機感でタガネを拒んでいるのだ。

「重くなると、どうなる?」

「ぺしゃんこになるんだ」

「ぺしゃんこ…………潰れるってことかい?」

「うん」

 推察した意味について。

 概ね正解していることにタガネは安堵した。

 人が増えれば重くなり、やがて潰れる。

 タガネですら聞いたことがない現象である。

「じゃあ、人が減ると?」

「…………?」

「軽くなったりせんのかい?」

「うん」

「そも何が重くなるんだい」

「村に住んでる人の体」

「…………」

 重さの変化は人の増減に関係しない。

 村に入った時点で発生するのならば、タガネの体にも影響が出るはずなのだ。

「俺は重くないが」

「荷物、置いてみて」

「うん?」

「いいから」

 少年がタガネの荷物を指差す。

 意図のわからない指示である。

 ただ、重くなる現象を実証するために必要な作業なので従うしかない。

 旅の必需品を詰めた麻袋を地面へと下ろした。

「それで?」

「持ってみて」

「よ――っと?」

 改めて荷物を背負い上げる。

 すると、普段よりもずっしりと体に乗る重みが違う。苦ではなかったそれが、今では大人一人分のような手応えに変容していた。

 驚いてタガネは目を剥く。

「な?」

「こりゃ魂消たな」

「だろ。 だからこの村はやめとけよ」

「…………」

 タガネは麻袋の重量を噛みしめる。

 それから、再び地面へと置いた。

「重くなったのは俺の体か」

 タガネはその場で屈伸する。

 すると、普段より微かだが足に負担があった。

 立ち上がる際の労力は倍に近い。

「なるほどね」

 自身を睨む子供越しに村を見やる。

 これまで他殺などを考えていた。

 だが、これ自体には殺傷力が無いので魔法とは考え難い。

 もし、犯人がいないのなら。

「こりゃ俺の手に負えんぞ」






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