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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
七話『熱醒まし』上編
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 そんな呑気なことを言った半日後。

「はあ」

 チゼルは墓碑の後ろにいる。

 星狩り祭には学友に誘われていた。

 ベルソートの依頼があるのでこれを断らざるを得ない。

 いや、元から予定は入っていた。

 最も大事な用事。

 ダウルとの約束も無碍にしてしまった。

 以前から約束はしていたのである。

 最近は女子生徒に人気があって二人になれる機会が少なく、旅の頃を想起させる時間が戻っては来ない。

 何より、星狩り祭に好きな物を馳走することを確約していたダウルとの約束が、ここ一月の生き甲斐ですらあったと言えるら、

 その中で不意に降った厄だった。

 チゼルとしても断腸の思いである。

「なのに…………!」

 本来なら。

 約束の時刻は日の変わる夜である。

 それまで自由に過ごしても良い猶予があるように見えて、それすら許さないような悪辣なベルソートの用意があった。

 歴史学のみならず。

 チゼルは最近まで授業を欠席していた。

 その補習で放課後は詰めづめなのだ。

 終了するのは夕刻を過ぎた後、そこでベルソートからさらに別の所用が言いつけられ、やむを得ず遂行した結果で余裕は無かった。

 もはや、怒りすら湧かない。

 忙しくはあったが充実感の無い一日。

 現在のチゼルは半ば抜け殻状態だった。

「もう、早く終わらせる」

 必要最低限。

 その対応で書状を渡して速やかに帰る。

 脱力感で弛緩しきった思考と体。

 社の中を抜けていく夜風と、冷たい墓碑に体を預けて目を閉じる。

 その状態で待つこと半時。

 社の中に足音がこだまする。

 ようやく到着したであろう目的の人物だと判断して、墓碑の影から立ち上がろうとした。

 そのときだった。

「今年も来たぞ――親父」

 ぶるり、と体が震えた。

 声を鼓膜が知覚した途端に体が冷たくなる。

 緩んでいたチゼルの心身ごと、空気全体が締め上げられたように緊張感を帯びた。

 体の芯が悲鳴を上げている。

 この場にいることが危険だと本能が逃走を選択し、動くことこそ愚策と必死に抑制する理性との軋轢に堪える負担で心臓が痛い。

 墓碑を挟んだ向こう側。

 そこに尋常ならざる者が立っている。

「――おい、そこの未熟者」

「ッ」

「気配を消すのが下手だな」

 頭上から頭頂部を殺意が刺す。

 チゼルは恐るおそる上を振り仰いだ。

 墓碑の上に立って、傲然と胸を張って見下ろしている男がいる。社の薄闇では見えないが、橙色の双眸だけが仄かに光っていた。

 温かみのある日の色のはず。

 だが、男の眼光は刃物同然の鋭さで体を刺す。

 チゼルは見上げたまま沈黙する。

「ここは剣爵領地」

「…………」

「余計な目撃者がいては困る――排除するか?」

「くッ…………!」

 チゼルの手がザグドへと伸びる。

 それに先んじて手を骨太の鉈が遮った。

 冷たい刃が、指先の皮を薄く切る。

「抜剣も転身も遅い」

「――――」

「未熟すぎるが、妙だな。その剣はともかく、何か懐かしい気配がする」

「何者、だ…………おまえさん」

「その口調」

 男の鉈の峰がチゼルの頬を撫でる。

「まあいい」

「……………」

「セインもこれくらいは許すだろう」

 鉈が顔から離れていく。

 チゼルがゆっくり顔を上げた先で――――男が鉈を振り上げていた。

「一人くらい殺しても」

「なっ!?」

 無慈悲に。

 何の躊躇もなく男が大鉈を振り下ろした。







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