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馬車での一連の会話。
街に至るまでの経緯はつつが無く進む。
その全てが『前回』と同一。
タガネと荷馬車の男の同情、鉱物や地図を渡される会話の流れ。
意識しなければ気付けない。
まるで世界が繰り返している。
そも正夢の可能性も考えられた。
ただ。
鮮烈だった『前回』の記憶が、すでに薄れつつある。
この感覚は、夢の中で感じた既視感に似ている。もしかすると、夢を何度も追体験しているのだろうか。
そのまま。
タガネと別れ、港町に入った。
再び見る商店街の町並み。
新鮮味が無く、なのに色褪せて見えない風景が不安をあおる。歩む足先に力が入らず、夢遊病のように覚束ない足取りで進む。
そして。
「あ……セリュック」
好物が並んだ店に目が留まる。
フィリアはそちらへ足を運ぶ。
屈み込んで、一つを手に取った。それを店主がさとく見取って近づき、手をすり合わせながら勧めてくる。
その勢いに圧されて。
フィリアは苦笑混じりに勘定を済ます。
そして、それを齧ろうとして。
「おい、そこの小娘」
「あ、はい」
呼ばれて振り返った。
聞いた覚えがあるので、反射的に答える。
そして、声の主は夢の中から命を得て現れたかのように、けたけたと肩を揺らして笑っている白いコートの人だった。
懐かしさと恐怖が綯い混ぜになる。
フィリアは笑顔を取り繕う。
「どうかしましたか?」
「あんた、ここに来るのは初めてか?」
「……いいえ、何度か」
フィリアの言葉に。
相手の動きが一瞬だけ止まった。
しばし間を置いて、再び戯けた笑声混じりに懐から銀の首飾りを取り出す。
「西方島嶼連合の果実だな」
「好きなので」
「今日は祭りだって知ってるかい?」
「……ええ」
白コートが東を指差す。
フィリアは悪寒を感じて、それを悟られないように荷物を背負い直すふりでごまかした。
「実はな、あっちで食事会が開かれる」
「……そうなんですか」
「そこには島嶼連合の料理も出る」
「へえ」
「この首飾りは参加権の証明だ」
フィリアは小首をかしげた。
「どうして、私に?」
「……初めて来た感じがしたんでな。そういう人間を見つけては、より色んな文化に触れて貰おうって趣旨があるからな」
「初めて、という感じに見えましたか」
「ああ」
フィリアは首飾りを受け取る。
白コートは満足げに頷いて、隣を過ぎて去っていく。
「東の高台、夕刻に開始だ」
「ありがとうございます」
白コートの後ろ姿に振り返らず。
手元の首飾りを見ながら返事をした。
フィリアは飾られた琥珀の部分を矯めつ眇めつし、それをカバンの中にしまってから、街の南部に向けて歩む。
記憶している道順に従う。
もう地図は必要ない。
一度も確認せずに道を巡る。
やがて。
壁にツタの這う廃れた教会に辿り着いた。
その立ち居姿を見て。
「……ミストさん」
ここで出会った魔法使いの少女の名を囁く。
巻き込んでしまった。
夢の最後にどうなったかは知らない。
ただ。
あの閃いた雷を背にした大きな黒い影。あの直後、影によって捕食されたのか、八つ裂きにされたのか。
あそこで途切れた意識。
それが死だけを想定させる。
フィリアは崩れかけの扉を押して入る。
ヘルベナ像だけが健在な内装。
崩壊した壁面。
間違い無い。
「繰り返し……」
フィリアは不安に眉をひそめる。




