──After『シュリー』⑤
シュリーは赤子を抱いていた。
名は――アストレア。
名付けの由来は、帝国の土地に古くから伝わるルイペイ古代語の書物、そのの中にあった星月夜の女神アストライアから得た物である。
名付けは、カルノヤだった。
本人に自覚は無い。
古い文献も渉猟しているカルノヤに、もし妹が生まれるならばと問うたとき、その名を口にして皇后が気に入った末の命名である。
そして。
今宵から赤子は皇后と離れて暮らす。
その決定が帝王から下された。
「よろしく頼むわ、セヌ」
『しかと承った』
護衛に任されたのは帝国最高戦力。
その一角を担う魔皇のセヌだった。
旧くからの知人とあって、他の者よりも口が堅く、信の置ける者だと皇后が確信しての人選だ。
そして。
「頼むわ、シュリー」
「…………メイ」
「やっと様を付けずに呼んでくれたわね。でも、今言うのは卑怯よ」
「…………」
「お願い、シュリー。――私の親友」
親友。
その言葉を使うのも、また卑怯だ。
シュリーはそんな言葉を飲んで頷いた。
子供は、生まれながら帝国に破滅をもたらし、世界に大打撃を与える存在だと予言を受けた。生まれながら忌まれた子、親を知らず辺境で暮らさなくてはならない。
まるで――孤独だ。
かつての自分のようだった。
シュリーは思わず同情の念を抱いた。
まるで、いつかの自分である。
小さな違いこそあれど、今の彼女は親の愛情を知らない。
それが、いかに苦しい人生だったか。
シュリーはよく知っている。
せめて。
恩人の子だけにでもその苦労はさせたくない。
「この子は、必ず幸せに」
恩人としての命令だけではない。
この子――アストレアにも心血を注ぎ、愛を知って穏やかな生を送ってほしいと、シュリーは胸に誓った。




