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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
735/1102

幕間「ガーディア戦争・急」③



 ベストライは愕然としていた。

 最速と自負する居合術。

 受け止めることはできても、捉えることなど能うはずがないと断じる手練の技だった。

 だが、その自信は今宵を以て捨てざるを得ないのだと痛感する。

 何故なら。

「ホンマかいな、それ」

「ッ…………!」

 両の剣を抜き遂せることはなかった。

 鞘から半身を覗かせる程度で阻まれている。

 腰元からの抜剣の柄頭を、タガネの両手が握って押さえていた。獣人の腕力に耐えるその腕は、震えながら血管が弾けんばかりに盛り上がっている。

 抜剣される刹那。

 タガネは逃げずに前へと跳んだ。

 ベストライは跳躍から剣を抜くまでの距離を敵から誤魔化すべく低姿勢を取る。上体を起こしつつ剣を放って相手を斬るまでの動作を一呼吸で、それも瞬きの間に行う。

 視覚の発達した亜人種などでも無い限りは捉える者などいない。

 況してや、反応などかなわない。

 それらを――一挙に少年は実現した。

 抜剣の予備動作たる上体の動きと、剣が放たれる角度などを初見の一撃から精密に把握していたのだ。

 本来ならば有り得ない。

 剣鬼の最大の武器。

 それは卓越した剣技と見誤っていた。

「デタラメな目ぇしとるな」

「ぐふぅぅ――――!」

 剣の柄を噛んで。

 タガネは剣を抑える手に力を込める。

 手を空けるために剣を口に咥えているその顔はまさに鬼の相だった。

 両者の間の空気が熱い闘気で飽和する。

 ベストライは確信した。

 長期戦になっても居合術は破れない。

 そんな安心は、いま砕かれた。長丁場になるほど全ての技を看破されて無に帰す。

 早々に殺さなくてはならない。

 剣鬼に対する脅威判定が甘かったと自省する。

「さっすがや」

「く………ぐ…………!」

「けど、相手は亜人やで?」

「…………?」

「武器は、剣だけとあらへん」

 ベストライが身を乗り出す。

 タガネの眼前に開かれた狼の牙が迫った。

「なら手を変えるだけだね」

「ッ!?」

 タガネが片手から力を抜く。

 一本の剣の柄頭から手が離れた。

 ベストライの腕力が抵抗を失ったことで意図せず解放され、剣が鞘から飛び出る。

 その転瞬。

 タガネが身を低く屈めて内懐へと翻身しながら飛び入った。

 そのまま肩でベストライの下顎を打ち上げる。

 同時並行で口から開放した剣を逆手持ちにし、彼の軸足の大腿へと突き下ろした。

 上下で意識を分散させる狡猾な攻撃へ、咄嗟にベストライは剣から手を離してタガネを横へと薙ぎ倒す。

 床を転がりながらタガネが剣を振るう。

 下から迫る剣尖に、ベストライは後ろへ跳躍して躱した。

 互いに距離を取って睨み合う。

「〜〜〜〜舌噛んだわッ!」

「ご愁傷さま」

 ベストライは声にならない悲鳴を上げた。

 タガネは不敵に笑いながら冷や汗を拭う。

「ええで、久しぶりの感覚や」

「……………」

「これぞ命の遣り取り、命を平等に扱う儀式やね」

「悪いが御免被るね」

「ん?」

 タガネがバルコニーを駆ける。

 そのまま、塀に飛び乗って振り返った。

「おまえさんの相手は別にいる」

「な、何やて!?」

「俺の仕事は、撹乱なんでね」

 ベストライへと手を振りながら、タガネは笑顔のまま塀から飛び降りた。

 ベストライはそれを唖然としたまま見つめていた。

 剣を鞘に納めて塀に駆け寄った。

 下を見ても、タガネの影は見当たらない。

「勝負は途中や…………次は逃さんで、剣鬼」

 ベストライは後ろを振り返った。

 燃える砦の鎮火に努める兵士の声が響いている。

 タガネの言動通りなら。

 撹乱――すなわち剣鬼は陽動目的で潜入した。

 すなわち、本当の攻撃はその後にある。

「次が来るで、急がな」

 ベストライは砦の中へと踵を返していった。


 落下の途中で。

 タガネは懐中から一つの石を取り出す。

 表面に魔法の術式を刻んだそれを、落下先の地面に向けて投じた。放たれた石が光を放ち、爆散しながら強風を拡散させる。

 落下中にあった体が一瞬だけ風に押し留められた。

 その隙に体勢を立て直し、受け身を取る。

 再び始まる落下運動。

 しかし、先刻より速度も減退したことでタガネは着地を決めて安堵の息をつく。

 隠していた二手目。

 撹乱のための爆発する術式の石。

 それと、敵を撒く為の緊急用として各員に支給されていた風の魔法を刻む石があった。本来なら、これで追手を吹き飛ばしながら戦線を離脱する用途を与えられた道具である。

 着地に使ったのは咄嗟の判断だった。

「何とか生き延びたか」

 タガネは頭上を振り仰ぐ。

 バルコニーからは少し離れていた。

「危うかったな」

 あと三合。

 それだけで剣が折れていた。

 徒手空拳で敵う相手ではない。

 ベストライは、噂に違わない強者だった。あのまま戦えば、勝敗は分からないが決着はついただろう。

 しかし。

 それは任務外である。

 タガネにとっては命あっての物種、冒す必要の無い危険にまで手を伸ばすことはない。

「さて、フレデリカと合流だな」

 タガネは剣を鞘に戻して走り出した。





遂に首が治りました。

30°取り戻すだけで世界広がりました(物理的に)。。

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