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山羊兜の王――リギンディアは玉座の上で、また新たな報告を受けていた。
ひざまずく女性兵士に視線を注ぐ。
「反乱軍?」
「帝国内に潜伏していると」
「カルノヤの手勢か」
「いえ、それとは別派の」
リギンディアが沈黙する。
自身の傘下に降った元敵勢力たちは、未だ翻意を隠している者たちもいた。その中枢となる要人だけを的確に洗脳し、無力化して今日までの統制を維持している。
常にすべてに目を光らせていた。
だからこそ、まさか帝国内という最も身近な場所に感知できない敵意があったことに驚いている。
よもや。
あの日に逃げ延びた預言者か。
「統率者は?」
「不確かですが、皆にアーマと呼ばれている人物らしく」
「アーマ」
「まだ調査中ですが、今のところ素性が知れない者です」
「ふむ」
「奴らは探し物をしているとか」
リギンディアは兜の奥で嘆息する。
「一体何を」
「噂になった『異貌』とやらを」
「…………そうか」
リギンディアは一瞬だけ絶句した。
同時に。
途轍もない憤りを感じて肘掛けを強くつかむ。
感情の揺れを兵士に悟られまいと、兜をしていることに安堵しつつ事実を嚥下していく。
危うく、『アストレア』が表出する寸前だった。
キルトラを奪う。
理由如何など、この際どうでもいい。
リギンディアにとっては逆鱗にも等しく、誰の手にも触れさせたくない大切なモノだった。
「そうか」
「報告は以上となります」
「下がりなさい」
「はっ」
女性兵士は引き下がった。
玉座の間を辞していくその背中に視線を送りつつ、リギンディアはふっと息を吐く。
「やられたな」
王のその呟きは誰の耳にも届かない。
玉座の間を出た女性兵士が立ち止まる。
それから一度だけ扉へと振り返った。
王の見せた一瞬の沈黙。
「やはりな、見つけたぞ――弱点」
女性兵士はずんずんとその場を闊歩して去る。




