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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
五話『義憤の花』夏
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 帝王は玉座の上で歯軋りしていた。

 戦場から上がった報告。

 それは影人による数々の所業(しょぎょう)である。

 戦地に現れては、帝国勢に味方するように動く。勝敗として見れば嬉しい誤算(ごさん)だが、その実キルトラが立てた功績は厄介にしかならない。

 帝国の手で討ちたかった敵将――『戦車』のジル討伐を横取(よこど)りされた。

 雑兵を削るならはまだしも、際立った敵の戦力を討って武勇を轟かせるなら帝国の手で行いたい。

 結果として。

 影人を処分したい一念(いちねん)もあった。

「陛下、アストレア参上いたしました」

「うむ、ご苦労」

 膝下にひざまずく皇太子。

 忌まれた予言の子ながら働きは期待を寄せる。

 それでも。

 時折のぞく瞳の奥の闇に信用(しんよう)が置けなかった。

 アストレアと比較すれば二人の皇太子は凡庸としか形容できない。期待すべき長兄は年功序列(ねんこうじょれつ)に胡座を搔き、末弟は帝室の血さながらの野心家(やしんか)でアストレアの登場から焦燥に駆られて不穏な動きを見せている。

 帝室の破綻(はたん)も近い。

「アストレアよ」

「はい」

「お前に頼みたいことがある」

「何なりと」

 恭しく下げられたアストレアの頭に視線を注ぐ。

 父母のどちらにも似ない子。

 当時は予言のせいもあって皇后の不貞(ふてい)を疑ったが、元から体が病弱で人との接触の機会すら少ないため、離宮(エムパヌーダ)を調査してすぐに杞憂だと判明した。

 今なお玉座の間に花が咲いている。

 特異な能力(ちから)もまた疑念の対象にしかならない。

 時代の節目。

 そう囁かれるのも無理ではない。

「戦場に出没(しゅつぼつ)する影人の存在は知っているな?」

「はい」

「お前にはヤツを処分して欲しい」

「…………陛下のお望みとあらば」

 アストレアが面を上げる。

 そこには微笑みがあった。

 邪念を感じさせない柔らかい笑み。

 だが、帝王は即座に察する。その瞳には自分が映っていない、アストレアは別の何かを見据えている。

 彼はその場から立つ。

「手段は私に委ねてくれませんか?」

「よい、許す。だが軍は――」

「影人一体に軍は不要です。どうか吉報を座してお待ち下さい」

 一礼して彼女は踵を返す。

 帝王は胸を撫で下ろした。

 ふと、自身が緊張していたことに気づく。手を見れば、微かに強張(こわば)り震えていた。

 深く息を吐いて。

 玉座の背もたれに身を委ねる。

「化け物め」


 玉座の間を出て。

 アストレアは通路を微笑みながら歩む。

 途中から別の通路でセヌが合流した。

 見計らったような素振りが無い自然とした出会い方に、侍女たちも目を向けない。

「セヌ」

『はっ』

「僕はこれから少し手掛ける」

『どちらへ』

「キルトラの所在は判る?」

『――しばしお待ちを。ワシでも気配を辿るのは難しい、明日までにはご報告いたします』

「了解、消えて良いよ」

 セヌの姿が景色に溶けて消える。

 アストレアは自分の足取りが弾んでいることに気付いて笑みを深めた。

「予定と違うけど」

 その声は玉座の間とも違う。

「待っててね、キルトラ」

 恋する少女のように甘い声色だった。





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