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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
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幕間「ガーディア戦争・序」⑦



 今日も賑わう帝都の市場。

 その中を散策していたタガネは城に戻った。

 番兵に挨拶して中へと入る。

 帝国制度の重鎮と思しき要人が通路を往来する中、タガネを睨む者が何人かいる。その理由については、タガネ自身も概ね把握していた。

 配属部隊が決定したこともあり、現在の城内は何処も忙しなく、宛てがわれた客室でもあまり落ち着かない。

 タガネは遊撃隊の要。

 戦線の撹乱と初撃を担い、かなり重要である。

 そんな重責が外様の傭兵に一任された。

 これでは上層部も心中穏やかではいられない。

 本来ならば。

 奇襲能力などが高い人材もいる。

 それよりもタガネの実力が適任であるという判断は、一部でも反対を呼んでいるのだ。

 だからこそか。

 その不平声を鎮めるための方策が施された。

「ここにいたか、剣鬼」

「槍王の弟子か」

「フレデリカ。いい加減に名を憶えろ」

「…………」

 槍王の弟子の少女が隣に並んだ。

 タガネは無言で歩き続ける。

「私の管轄下で余計なことはしないように」

「何だい、余計なことって」

「目上の方への不敬な態度」

「…………」

「傭兵とは信頼稼業なんだろう。実力に胡座を掻いているだけでは、信用はついてこない」

「まさか傭兵やってない人間に説かれるとはな」

「常識だろう」

 タガネが嘆息した。

 剣鬼を遊撃隊に派遣することの不満への方策。

 それが槍王の弟子の同伴である。

 今回の戦争を皮切りに、槍王や拳聖などの主要戦力の継承者を見定める監察が行われるのだ。戦士としての寿命は、最終的にもおよそ中年期を迎える前までとされ、妥当な時期ではあった。

 卓越した実力者であろうと人間。

 その理からは逃れられない。

 例外は幾つかあるが、欠けてはならない戦力とあって継承者は早期に決定される。

 今回の戦争がその決定に深く関わっていた。

 槍王の弟子フレデリカ。

 帝国の期待を一身に浴びる存在である。

 品行方正な人格、実力も問題無し。

 剣鬼を御する監視役として適当とされた。

「明日には部隊の者と顔合わせだぞ」

「そうかい」

「…………少しは会話をする努力をしてくれ」

「その価値がおまえさんに無い」

「なッ!?」

「ご愁傷様」

 愕然として固まるフレデリカ。

 タガネは彼女を置いて早足で歩く。

 すると。

「私だって、こんな………」

「げっ」

「帝国上層部のおじさん達は私が見るの言うのに不平の声は絶えないし、努力しているのに剣鬼には嫌われるし、やはり私は…………」

「くそ、面倒な」

 降って湧いた面倒にタガネが託ち顔になる。

 この数日間で知ったこと。

 フレデリカは世間の評判通りの人間ではない。

 その内面は、ひどく悲観的で他者からの批評などに対する精神的耐性が弱い。その判断力や立ち居振る舞いは大人も認めるほどに達観している。

 だが。

 フレデリカの本性は脆弱だった。

 上層部と御せない部下で板挟み。

 その苦辛に早くも折れかけている。

 先日、挨拶のために彼女の部屋を訪ねた際に壁の隅でひたすらに弱音をこぼし続け、来訪者を気取れないほど没頭していた姿は、世間の評判通りに見ていたタガネには青天の霹靂だった。

 そして正体を知られたせいか。

 フレデリカは遠慮なく弱音を晒すようになった。

「おい、槍王の」

「名前すら記憶されない、私は本当に…………矮小な人間なのだな」

「くそ、フレデリカ」

「はい?」

 暗澹とした表情でフレデリカが顔を上げる。

 タガネは思わず顔を顰めた。

「ああ、私の顔を見るのも…………」

「フレデリカ」

「はい」

「帝都で飯を買った。城壁の上で食うつもりだが、おまえさんも来るか?」

「…………本当に、良いの?」

「お、おう」

 フレデリカの目が輝く。

 タガネの表情が固くなる。

 人を食事に誘うこと自体が慣れない。何より同年の者との交流自体がめっぽう少ないタガネにとっては、不慣れどころか苦手この上ない行為だった。

 嬉々としてフレデリカが踊るように隣に立つ。

 彼女に歩幅を合わせて歩き出した。

「これが友情だな!」

「へいへい、そうさな」

「ところで剣鬼」

「うん?」

「君が贔屓していた王国は、獣国との同盟関係にある。争う上で、そこに問題は無いのか」

「ああ、それか」

 その質問に。

 一瞬だけタガネの脳裏に国王の顔が浮かぶ。

 頭を振って、その面影を払った。

「傭兵だ、いずれはこうなる」

「…………」

「それに、王国は戦中の介入を防ぐ為に帝国が横した陽動の兵と、北の蛮族への対抗で忙しい。奴さんらと戦場で相見えることは無いだろ」

「そうか」

 フレデリカが納得して前を向く。

「久しぶりに剣姫と戦いたかったのだが」

「剣姫ね」

「気になる?」

「つい少し前に国王に紹介されてな」

「可愛かったろう」

「難儀な性格のせいで外見(みてくれ)に目がいかん」

「まあ、たしかに」

 フレデリカが苦笑交じりに同意する。

 ともかく。

 剣の鈍る理由はこの戦場ではない。

 たとえかつての味方であろうとも、タガネは容赦なく斬り捨てる所存だった。

 もうすぐ戦争が始まる。

「どうなることやら」




ここまでお付き合い頂き、誠に有り難うございます。


ガーディア戦争の序は、とりあえずここまでとします。次回は小話か、それとも五話の夏が解禁です。。

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