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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
四話「橋織る谷」・上巻
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 慈雨を受けた青葉が光る。

 初夏の深緑が枝の先を(あで)やかに彩った。梢が折り重なって森となれば、快晴の空の下で風を受けると緑の海となって波打つ。

 空気は茹だる暑さ。

 それでも、風に揺られて重なる葉擦れが潮騒となって風の訪れを告げるので、聞く者の心地も涼やかにした。


 杣道(そまみち)を辿る銀髪の剣士。

 笠の下の顔は、険しい眼差しを前方に投げた。

 頭上では木々が枝の手をつなぐ。

 枝の屋根が完成し、さながら木のトンネルだった。

 しかし、そのせいで熱気がこもる。

 何より風が吹けば虫を振り落とした。

 まるで木の悪戯のようだが。

 ときおり毒虫が混じっているので笑えない。

 熱気と毒虫。

 旅足の()む道なのは間違いなかった。

 依然として。

 先に人の住処は見えない。

「景色は美事なんだが」

 右手には谷。

 対岸の山には滝の嗄れた跡があった。

 削られた山肌の岩の隙間を植生の緑が縫う。

 まさに自然の風景である。

 だが。

「物見遊山じゃないんだが」

 タガネは独り肩を落とす。

 気懈(けだる)げに目を眇めた。

 その面前に。

 梢から緩やかに蜘蛛が垂れる。

 赤黒い体表は、毒虫の証。

 この山道でよく見る種類だった。落下はしないが、人を獲物と見紛ってよく自ら降りてくる。

 剣士は身を引いて避けた。

 噛まれても解毒剤は無い。

 ただでさえ予定より遅い足取り。

 これ以上。

 毒などで余計に足を鈍らせるわけにはいかない。

 辟易しつつも。

 一歩ずつ前へ踏み出す。

「そろそろ橋があるはずなんだが」

 懐中から地図を取り出す。

 畳まれたそれを広げれて現在地を確認した。

 印をつけた目的地にほとんど重なっている。

 あとは谷を橋で渡るだけ。

 タガネは地図をにらみながら進み続けて。

「お、あれか」

 とうとう橋を見つけた。

「あ、あれなのか?」

 そう、橋ではあった。

 タガネは色を失って立ち尽くす。

「この地図、最新だぞ」

 もはや絶望すら浮かべる。

 地図通りの位置。

 谷を渡れる唯一の道だった。

 その橋が落ちていた。




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