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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
後日談、その四
557/1102

小話「角の名残」⑷



 一夜が明けて墓所へ向かう。

 まだ日が差したばかりの早朝であった。

 念の為に片手に龕灯を提げる。

 果たして。

 出現時期が夜中からいつまでなのか。

 朝方でも接触可能か検める必要があった。

 緊急時の脱出口などの地勢の事前調査も兼ねている。

 仮に会敵しても対処できる。

 態勢は盤石。

 あとは出現時期の確認のみ。

 タガネは森の入口に立つ。

 内側は墓所になっているが、樹林の中へ続いていく一本道の先は闇を湛えている。墓石の一つもみとめられない。

 嘆息して足を進めた。

「たしかに出そうだな」

 龕灯を掲げて辺りを見回す。

 照明された範囲は限られる。

 だが、そこかしこに墓石が発見できた。他にも添えられた新しい花なども目につく。

 剣鬼に襲われる。

 そんな風聞があっても人は来ている。

 出現時期を把握しているからか。

 それとも。

「偽物ならありがたいが」

 タガネは墓所を奥まで進んだ。

 そのとき。

 前方でかさり、と葉擦れ。

 タガネは素早く片手を剣の柄に添える。

 行く手の暗中で蠢く気配を察知した。

 人間か、動物か、魔獣か。

「おや、墓参りかな?」

「……そんなとこだ」

 ぬっ、と。

 闇の中から老人が顔を出す。

 いささか面食らいつつ冷静に言葉を返した。

 タガネは構えを解いて歩を進める。

 老人の直近へと寄った。

「ここは亡霊が出るって話だが」

「色んなもんが出るよ」

「たとえば」

「昔の戦士たちだ」

 老人は周囲を見回す。

「ここは不思議なのだ」

「不思議」

「知らん間に墓が立つ」

「へえ」

「まるで、行き場の無い霊を悼むように勝手に出来るんだ。いつからそうなのかは知れんが、私が子供の頃からすでにあった」

「下の街では知られてんのか」

「今や爺婆の古い記憶よ」

 タガネはふん、と鼻を鳴らす。

「なら教えてくれな」

「何を」

「タガネ、という名の墓は?」

「それなら、ほれ」

 老人が右手を指差す。

 タガネはそちらを龕灯で照らした。

 すぐそばに並んでいた三つの墓石、その中心にある物に『タガネ・キリサキ』と刻んである。

 ぎょっとして。

 タガネは思わず剣を抜きかけた。

「どうした?」

「いや、危うく墓を刻むとこだった」

「知り合いか」

「ああ」

 タガネは墓石を睨んだ。

 よりにもよって縁を切った切咲の名。

 墓があることも驚きだが、よもや忌むべき姓がついていることが業腹であった。

 墓石の前に屈み込む。

「これが、か」

「いったい誰なんだ」

「さてね、俺も忘れたよ」

 タガネが呆れ笑いをこぼした。

 その瞬間。

『思い出させてやろうか』

 どこからか声がした。

 タガネは眉をひそめて視線を上げる。

 墓石の後ろで。

 タガネを見下ろす人影が佇んでいた。




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