14
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します。
では一発目、どうぞ。
マコトが片手を挙げた。
手中から黄金の光とともに聖剣が現出する。
前傾姿勢だった魔神が引き下がった。
その輝き。
剣聖姫が手にしたとき。
或いはタガネが手にしたときよりも神々しい。
三千年に亘って、リョウが忌み嫌ってきた元凶は、やはり目を眩ませるほどの神聖さを放って赫耀と世界を照らす。
女神に選ばれた勇者。
その生贄となった己。
どれだけ卑屈になっても変わらない。
マコトが常に寵愛を享け、優れる。
リョウはその日陰として存在した。
死してなお、不変の上下関係。
『元の世界に帰らなかったのか』
『兄さんが来ないからですよ』
『嘘付け。あっちに行っても、病院だから退屈でってだけだろ』
『言ったよね?』
マコトが聖剣を掲げる。
その剣先がきらりと光った。
『兄さんがいないと意味が無いって』
『……キモいんだよ』
『そうかも』
『バカにしてるだろ』
『兄さん、私ね……才能があっても友達や理解者はいなかった。傍にいて、私を見てくれる人はいなかったの』
『は?』
マコトは自身の半生を顧みる。
才能を授かった栄光ある生。
何を為そうと褒賞を受け、瑣末なことだろうと無為に陥ることなど一つたりとて無かった。万一に失敗があったとしても、そこに何かの発見があって次へ繋がらないことがない。
後ろも、行く手も、常に笑顔。
面識の無い者からの熱烈な崇拝の声。
生まれながら神のごとき扱い。
そんな最中で。
兄だけはマコトの本性を知っている。
趣味や嗜好を察知していた。
たった一度だけ、兄が誕生日として与えてくれた物があった。
子供の小遣いでも安い。
拾ったのではないかというほどの安物の指輪。
『兄さんだけだよ』
『…………』
『ワタシが薄味が嫌いなのも、実は人形作りが一番好きなのも、実はアクセサリーの類に目が無いのも……兄さんだけが知ってくれてた』
『そんなことは』
『当たり前?』
『ちっ』
『たとえ嫌われてても、兄さんが一番の隣人だった』
『うるせぇええッッ!!』
魔神が吼えた。
『嫌いだから以外に意味を見出すな!!』
『…………』
『いっつも日の当たるところにいるオマエが、日陰のオレ様を見下しやがって……』
『ううん』
聖剣が虚空に一閃される。
何処を狙ったわけでもない素振り。
魔神は自身の体を検めるが、やはり変化は無く切断されたであろう形跡は周囲一帯にも見受けられなかった。
ところが。
一筋の光が魔神の目を射抜く。
頭上から幾条もの光が射し始めた。
驚いて見上げて――己の目を疑う。
『あ、あり得ねえ』
『兄さんにも、陽は当たるよ』
都の上空。
夜気に満たされた空が真っ二つに裂けた。
夜闇が消えて、太陽の無い青空が広がる。無窮の青空にマコトそのものが太陽の化身がごとく空に佇む。
魔神は両の掌を打ち合わせる。
掌中から黒く淀んだ魔力が充溢した。
『今のオレ様は違う』
『同じです』
『オマエが築いたもんを全部壊して、絶望させてやる。今のオレ様は、オマエの何倍も強いんだよォ!!』
『そうかな』
『『ブリューナク』!!』
魔神が両腕を広げる。
その胸前から闇色の光線が放たれた。
太陽へ一直線。
先刻の破壊を凌駕する威力を有した最大の一撃である。
だが。
『あの頃から何も変わってない』
マコトが聖剣を横薙ぎに揮った。
剣の平に当てられ、光線が跳ね返る。
打ち返されたことへ驚く間もなく、光線は発射源に力が逆流し、魔神の胸前で極大の爆轟を炸裂させた。
同時に。
マコトが指をぱちん、と鳴らす。
神秘が都を包み込んだ。
爆風や衝撃波は、すべて魔神のみにしか伝わらず、都中の物質には伝播しない――あり得べからざる現象が発生した。
竜の頭が仰け反った。
体の前面が爆ぜて焦げた臓物や筋が剥き出しになる。
巨躯が黒煙を上げて硬直した。
『ふ……ふはは、同じ、か』
『…………』
『オレ様は、未だにオマエの下ってか』
『ごめんね、兄さん』
『ふざけんな』
『ワタシはもう死人。今のワタシには貴方を止める資格どころか力も無い』
『……は?』
『兄さんがその力を温めてきたように、ワタシもこのときの為に力を制限していた。だから、これはほんの一瞬の夢』
『何を言ってる?』
『ただ兄さんに謝りたくて三千年も待った』
『…………』
『ずっと苦しめてごめんなさい。
肉体を奪って、異世界に巻き込んで……それでも、ワタシは兄さんを憎んだり恨んだりしない。たとえ世界を滅ぼしても』
マコトが頭を下げた。
その体が少しずつ崩壊を始める。
魔神は体をゆっくり前に戻した。
『なら文句言うなよ、壊しても』
『うん』
『じゃあな、亡霊』
『うん……でも、兄さんも同じ亡霊』
『は?』
『今を生きる彼らを止めない限りは、ね』
マコトの形が崩れた。
空が再び漆黒に染まり、星が姿を現す。
眼前から忌まわしい存在が消えて魔神は安堵した。
瞬間。
頭上から魔神の眉間を銀光が一筋貫いた。
『ごはっ!?』
血を噴いて思わず仰け反る。
振り仰いだ先で――砕け散る魔法陣を背に、鬼の形相で迫る一人の剣士を見出す。
魔神は目を瞠った。
『タガネぇえ!?』
『疾ッ――!!』
縦に一筋。
魔神を両断する神速の剣光が閃いた。
剥き出しの心臓が一つ破裂する。
『ぎゃああ!!』
「先祖様の時間稼ぎで助かった」
「そうじゃのぅ」
魔神は下を見やる。
血涙が混じって赤く染まる都の景色。
その中に――タガネとベルソートが立っていた。
「死人に助けられるとはね」
「全くじゃ。侮れんのぅ、絆というやつは」
「感謝せんとな、マコトにも……アカツキにも」
タガネは片手の太刀を一瞥した。
刀身はすでに刃元まで破片となって砕けている。
まるで役目を終えたかのように。
タガネは柄を強く握りしめた。
鍔から刃の代わりに、タガネの魔力が刀身の形となって出現する。純然たる魔素だけで生成された刃が夜闇の中でかがやく。
魔神は血を吐いて狼狽した。
『な、なんで生きて……心臓……!?』
「言ったろ」
『………?』
「二人のおかげだってな」
タガネは前で魔剣と太刀を交差させる。
その刃の奥で、不敵な笑みを浮かべた。




