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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』実
538/1102



 大天守の最上階。

 床面が穿(うが)たれて階下へ瓦礫が降り注ぐ。

 その中に紛れて、リョウは縦横無尽に奔った。

 タガネは落下中も油断なく神経(しんけい)を研ぎ澄ます。

 背後から振るわれた包丁を、背剣のように構えた魔剣で防ぎ、振り向きざまに弾きなが左の太刀を横に()ぐ。

 首を刎ね飛ばさんとする刃。

 リョウは首を後ろへと倒す。

 (いな)

 首が直角に折れ曲がり、後ろに倒れた。

 ぎょっとするタガネの眼前で一太刀が空を斬る。

 ごくり、と鈍い音を立てて首が矯正(きょうせい)され、再びリョウの凶相が正対した。

 右手の包丁が振り下ろされる。

 タガネは宙で背転。

 振り上がる足で、包丁の握り手を蹴り上げた。

 手首を強か打擲(ちょうちゃく)して攻撃を阻止する。

 リョウが舌打ちを鳴らす。

 二人は階下の床に着地した。

 タガネは落下する瓦礫を(かわ)し、あるいは斬って避ける。

 ところが。

「なッ?」

「常識なああ―――――ンってな!!」

 降り注ぐ木片。

 落下物の雨中から猛然とリョウが肉薄する。

 体に激突する物は、逆に跳ね返されていた。

 剣で振り払う猶予も許さない距離。

 タガネは咄嗟に剣と太刀を胸前に(かか)げる。交わった刃の交錯点に、鈍重な包丁の一撃が叩き込まれた。

 衝撃が体を突き抜ける。

 刹那(せつな)

 さらに伸ばされた手がタガネの首を掴んだ。

 止まらず駆ける突進力に圧される。

 間髪入れずに足を払われ、地面に(はりつけ)にされた。

 首を掌握した手に力が入る。

「このぉま〜ま♪」

「かはっ」

「ぽっきり、ぽっくり!」

 頚椎(けいつい)を折られる。

 反射的にタガネは魔剣を振るった。

 その直前に、動きを察知(さっち)したリョウは床を蹴って飛ぶ。首を掴んだ手を支点に、その場で逆さになった体勢を維持した。

 首にさらなる圧力がかかる。

 生命を脅かされる危機感に本能が刺激された。

 タガネは太刀で右腕に一閃(いっせん)する。

 リョウは手で直上に跳ね上がった。

 タガネの首に強い衝撃が加わる。――が、幸いにも頚椎を損傷することはなかった。

 太刀を回避したリョウは横へと着地する。

 タガネは起き上がろうとして。

「――包丁は?」

 相手の得物が消えたことに気づく。

 大きくなって近づく鈍い風切(かぜき)り音。

 戦慄に背中の産毛が逆立つ。

 タガネは横へと飛び跳ねた。

 遅れてその場に包丁が落下し、深々と床に刺さる。

 あのとき――投げていたのだ。

 魔剣と太刀の防御。

 両手が(ふさ)がる瞬間を誘った一撃の後、首を掴むや上へと放り上げられ、包丁は緩やかにタガネへと落下する……という算段だった。

 ――あと反応が一瞬遅れていれば。

 (おぞま)しい死の結果だけの仮想にタガネの背筋は凍った。

 ぴょう、と。

 口で吹いてリョウが笑う。

「お、やるぅ」

 飄然とした態度。

 およそ修羅場にある者の空気ではない。

 あの男はまだ切迫していない。

 タガネは舌打ちして首を回す。

「おまえさんの首は折っても無駄そうだな。自在に折れ曲がるらしいし」

「黄泉ならではの芸だぜァ」

奇術(きじゅつ)で躱されるとはな」

「まーだまっだ、これからダダン!」

 リョウが強く床を踏み下ろす。

 足下が波打ち、瓦礫が中空に踊る。

「第二幕」

「ちっ」

 リョウが柄を補強する包帯を剥いだ。

 その下は、等間隔で(あな)が空いている。柄頭は笛の口に似た形状をしており、そこに酷薄な唇がそっと添えられた。

 尋常ならざる拵えの武器。

 微かに感じた異色の魔力。

魔兵器(まへいき)か」

「魔包丁ヤクパムント――『魔音(まおん)』♡」

「けっ」

 正体を看破(かんぱ)して。

 即座にタガネは魔剣を構えた。

 刃元の水晶が水色に耀く。

 リョウがふっ、と息を吹き込んだ。

 柄の内側を通る呼気が孔を音色となって吹き抜ける。空間全体へと伝播し、崩落などの騒音なども圧倒して辺り一帯を満たす。

 だが――それはタガネには届かなかった。

 水色に光る半球状の結界が展開(てんかい)される。

 魔剣を中心としたそれに音は弾かれ――いや、吸収されていた。

 リョウが息を止めて瞠目する。

「あッ、ずりィ!」

「は?」

「フツーは相手の初手も甘んじて受け容れんのが流れだろーんがよぉオ!?こっちぁ小学生レベルのリコーダー技術で奏でてるっつーのに!」

「知らんよ」

「空気読め!」

「その拵えで笛と判りゃ力は音にあるなんざ容易に読める。それに……大体の魔兵器なんざレインの前では無意味なんでね」

「まぅた武器恃みかァ??」

「頼もしい家族なんでね」

「家族……吐き気がするな!!」

 リョウが床を蹴って前に出る。

 再び肉弾戦の挙に出た。

 それを目にして。

 タガネは太刀を後ろへと引き絞る。

 左肩から手先、鋒までに全身から集中させた全魔力を充填(じゅうてん)させた。景色が陽炎(かげろう)のように波打つほどの圧力が刀身から滲み出す。

 リョウは笑いながら突進した。

「吐き気がする……?」

「みはははははは!」

「――俺が言いたいね」

 タガネが一歩前に踏み込む。

 リョウの眼前で。

 後ろに振りかぶられた太刀が――視界から消える。彼にとっては、今日で二度も目にした光景だった。

 太刀の行方(ゆくえ)を追う。

 それすら許されず。

「――げばァッ!!!?」

 リョウの胴が袈裟斬りにされた。

 背後にあった壁や支柱、降り舞う微細な木端までもが同じように寸断される。遅れて突風がタガネからすべてを斥けるように吹いた。

 下半身を残して。

 リョウは床上を跳ね転がる。

「ぞれ、まさがッ……?」

「この太刀の持ち主ほどとはいかんがな」

 タガネは軽く一振りした。

 ひょう、と刃先が短く鳴く。

「味わいが違う『神速』だろ」

「がっ、かき、下半身取れちったぁ……」

「安心しな、次は神速も使わん」

「ああ?」

「ゆっくり、刻んでやる」

「魂に触れられるようになったからって調子づきやがってぇぇえ……!」

「たしかに調子はいいな」

 タガネは嘲笑って見下ろす。

 床を這うリョウの顔を踏み押さえた。

「さて、どうしてや――」

「でも残念」

「うん?」

「オレ様も死ぬ気でやるからオマエじゃ勝てませーん」

「なら死ね」

 タガネが魔剣を振り下ろす。

 目指すは心臓。

 魂でもそこを損傷すれば絶命は必至である。

「奥の手ええええ!」

 リョウが頭上で掌を叩く。

 乾いた音が響いて。

 タガネの足下がまばゆい光を放って爆発する。

 リョウから引き離されて宙を舞う。

 天高く弾き上げられた。

 爆風に揉まれながら、宙で体勢を整える。

 地上を見下ろして。

 タガネは唖然とする他なかった。

「なんだ……これは」

 切咲の城から北の当主を葬る社まで。

 天下を呑み込むほどの轟音とともに大地が爆ぜた。





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― 新着の感想 ―
[一言] やれやれぇ!(*≧∀≦)ノ って言おうとしたらなんか爆発したよ!? ミシェルたちは大丈夫!?
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