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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』実
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 倦まず弛まず。

 その足を最上階へと進ませる。

 屋内にも響き渡る笑声に顔をしかめた。

 左手の折れた太刀の柄を握りしめる。今から対峙する敵の凶悪さへの緊張感すら凌駕する怒りの熱でその血潮を滾らせていた。

 敵は城内に潜伏している。

 タガネたちの動きを把握した上で、着実に殺人を繰り返して距離を縮めていると考えた上でキリマルを使って敵の計画を無効化させる。

 襲撃は予期していた。

 ただ。

 脅威は想定以上だった。

 見誤った。

 数年前の甘い見積もりだけで相手の力量を量ってしまったがために、ベルソートや自分は戦闘不能、ミシェルも一時的に死を予感させる重傷を負う。

 そして。

 アカツキの命が奪われた。

 何かが始まろうとしていたのである。

 背中を押したのは自分だった。

 それを理不尽に奪われたのだ。

「だから、おまえさんは許さん」

「ひへへッ」

 最上階への階を踏む。

 最上段でリョウは待ち構えていた。

 返り値に濡れて、悦楽に染まった相貌は爛々と精気に充ち満ちた眼差しをタガネに注ぐ。

 服の裾から血が垂れる。

「許さない、だってえ?」

「…………」

「オマエの持論で言えば、自己満足……オレ様がキモチいいから殺したまでよ。責められる理由なんて無いだろ?」

「ああ、別におまえさんは悪くない」

「あ……?」

「責めはせんさ」

 卑屈に歪んだ口元。

 そこから低い声で囁かれる。

「ただ許すか許さんかも俺の勝手」

「けひっ」

「おまえさんは殺す」

「先祖様に歯向かうってかァ?」

「生憎と罰当たりな野郎なんでね。知らねえ先祖なんぞより身近な人間を想いやるもんさ」

「ホンっっトに罰当たりだな」

「伊達に鬼なんぞと呼ばれとらんよ」

 冷淡に言い放って。

 タガネは右の魔剣を振るった。

 軌跡を辿るように剣圧が爆ぜて、リョウの足元まで床が裂ける。木っ端が四散し、生じた風圧でリョウは後ろへと蹈鞴を踏んだ。

 その隙に階段を駆け上がる。

 最上階へと躍り出た。

 体勢をわずかに崩したリョウへ。

 渾身の魔剣を叩き込む。

 受け止めた包丁ごと、今度は後ろへと吹き飛んだ。

 いま彼は右手しか無い。

 アカツキの一刀で負った損傷である。魔剣の剣圧は片手では処し難かった。

 床を転がって。

 凶相がタガネを射竦める。

「相変わらず魔剣恃みか?」

「まあ、見てなよ」

 タガネは左の太刀を振りかぶる。

「ンなゴミに何が――!」

 嘲笑が、一瞬で戦慄へ変わる。

 弧状に白銀の斬撃が放出された。

 床を抉り裂いて、男の左肩を切断する。肩口から魂が吹き飛び。黒衣の下から血飛沫を噴いた。

 蹌踉めいてタガネを睨む。

「おいおい、早すぎねえ?」

「…………」

「もうちょっと修行して得るとかよぅ」

「訓えは受けたさ、おまえさんの妹に」

「……あのクソが……!」

 妹と聞いて。

 リョウは露骨に顔を顰めた。

 人を嗤うだけだった顔が苦々しく歪む。

「いっつも、いっつもオレ様の邪魔ばかり」

「…………」

「魔神になって世界滅ぼしてくれるかと思えば、下らねえ平和のために身を捧げて神気取りやがって」

「知らんよ」

 タガネは途中で言葉を遮った。

「おまえさんと妹の関係なんて」

「ちっ」

「ただ俺は斬りにきただけだ」

「調子乗りやがって」

「恨むなら勝手に恨め。何を思われようが、おまえさんを殺すだけだ」

 タガネは床を蹴って飛び出した。

 リョウも同時に包丁を振りかぶる。

 黄泉に始まりの剣戟が鳴り響いた。





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― 新着の感想 ―
[一言] ベルソート以上に怒りを感じる、このヤロウ(#`皿´) たまに悪人面するけど 今回に限ってめちゃくちゃ丸くなってるから(^-^;) かわいさすら感じる(;・ω・)
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