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魂のリョウと肉体のマコト。
「盲点じゃった」
ベルソートは悔しげにこぼす。
石畳の上に広がる血池を三人は囲った。
中央では、仰向けに横たえられたアカツキが安らかな顔で眠っている。胸の傷口は深く、心臓にまで達していた。
損傷の甚大さを確認してベルソートが俯く。
傷を治癒したミシェルは、けれど顔を手で覆って嗚咽を漏らしていた。
ナギすらも堪えきれない感情が相ににじむ。
一人だけ。
輪から外れた場所にタガネは佇む。
片手にはアカツキの太刀を提げる。
「あの野郎は、どこに」
「言葉通りなら城じゃ」
「そうかい」
太刀の柄が軋む。
握る手が力むあまり震えていた。
炯々とした銀の瞳が都を睨む。
魂の世界から解放されたので、いま手元から魔剣は消えていた。
だが。
目には見えないだけ。
その手中には未だ魔剣の魂がある。
タガネは社の出口へと向かう。
「何処に行くんじゃ」
「奴さんを仕留めに」
「今は止めた方がいいのぅ」
ベルソートが制止する。
訝しげにタガネが彼を見遣った。
「何か拙いのかい」
「ヤツには勝てん」
「ずいぶん弱気だな」
「魂の領域は、ワシらが存在する域とは少し異なる。強弱の問題じゃなく、文字通りの別次元なんじゃよ」
「別次元」
「ヌシの剣なら届くやもしれん」
「まだ魔剣頼りだがね」
「そう、まだ付け焼き刃じゃ」
魂への接触。
会得までに敗北する可能性は高い。
襲撃まで接近すら気取らせなかった隠密能力、タガネの剣撃に応じる速度、魂を直接害する攻撃力。
そして。
それらを束ねる狂気である。
あの男――リョウは心身が凶器。
タガネですら、まだ曖昧にしか知覚できない次元から侵略してくる。
それでも。
「今なら届く気がする」
「む?」
「セインのときや、おまえさんを斬った手応え、あとはヤツの剣を受けた衝撃を……鮮明に思い出せる」
「…………」
「たとえ勇者の兄だろうが」
「じゃが」
「ただじゃ置かんよ」
タガネが振り返った。
鬼気迫る形相にベルソートは口を噤む。
その瞳はアカツキを捉えている。
久しく見ていなかった剣鬼時代の迫力だった。
ベルソートを降したときと同じ。
だが、それでは勝てない。
「今のヌシでは勝てんよ」
「…………」
「喪失への怒りは、たしかに捨て難いわぃ」
「なら」
「だからこそ、これ以上は失えん」
ベルソートはきっぱりと言い放つ。
タガネの瞳が微かに揺らぐ。
それから――社の地面に触れた。
「なら、ご教授願おうかね」
「誰にじゃ」
「決まってるだろ」
掌が触れた箇所から銀光があふれる。
「訓えを乞うなら先達に限る」
ふたたび。
タガネの脳裏に一人の女性が現れた。




