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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』実
532/1102



 魂のリョウと肉体のマコト。

「盲点じゃった」

 ベルソートは悔しげにこぼす。

 石畳の上に広がる血池を三人は囲った。

 中央では、仰向けに横たえられたアカツキが安らかな顔で眠っている。胸の傷口は深く、心臓にまで達していた。

 損傷の甚大さを確認してベルソートが俯く。

 傷を治癒したミシェルは、けれど顔を手で覆って嗚咽を漏らしていた。

 ナギすらも堪えきれない感情が相ににじむ。

 一人だけ。

 輪から外れた場所にタガネは佇む。

 片手にはアカツキの太刀を提げる。

「あの野郎は、どこに」

「言葉通りなら城じゃ」

「そうかい」

 太刀の柄が軋む。

 握る手が力むあまり震えていた。

 炯々とした銀の瞳が都を睨む。

 魂の世界から解放されたので、いま手元から魔剣は消えていた。

 だが。

 目には見えないだけ。

 その手中には未だ魔剣の魂がある。

 タガネは社の出口へと向かう。

「何処に行くんじゃ」

「奴さんを仕留めに」

「今は止めた方がいいのぅ」

 ベルソートが制止する。

 訝しげにタガネが彼を見遣った。

「何か拙いのかい」

「ヤツには勝てん」

「ずいぶん弱気だな」

「魂の領域は、ワシらが存在する域とは少し異なる。強弱の問題じゃなく、文字通りの別次元なんじゃよ」

「別次元」

「ヌシの剣なら届くやもしれん」

「まだ魔剣頼りだがね」

「そう、まだ付け焼き刃じゃ」

 魂への接触。

 会得までに敗北する可能性は高い。

 襲撃まで接近すら気取らせなかった隠密能力、タガネの剣撃に応じる速度、魂を直接害する攻撃力。

 そして。

 それらを束ねる狂気である。

 あの男――リョウは心身が凶器。

 タガネですら、まだ曖昧にしか知覚できない次元から侵略してくる。

 それでも。

「今なら届く気がする」

「む?」

「セインのときや、おまえさんを斬った手応え、あとはヤツの剣を受けた衝撃を……鮮明に思い出せる」

「…………」

「たとえ勇者の兄だろうが」

「じゃが」

「ただじゃ置かんよ」

 タガネが振り返った。

 鬼気迫る形相にベルソートは口を噤む。

 その瞳はアカツキを捉えている。

 久しく見ていなかった剣鬼時代の迫力だった。

 ベルソートを降したときと同じ。

 だが、それでは勝てない。

「今のヌシでは勝てんよ」

「…………」

「喪失への怒りは、たしかに捨て難いわぃ」

「なら」

「だからこそ、これ以上は失えん」

 ベルソートはきっぱりと言い放つ。

 タガネの瞳が微かに揺らぐ。

 それから――社の地面に触れた。

「なら、ご教授願おうかね」

「誰にじゃ」

「決まってるだろ」

 掌が触れた箇所から銀光があふれる。

「訓えを乞うなら先達に限る」

 ふたたび。

 タガネの脳裏に一人の女性が現れた。





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