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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話「境の逃げ宝」下編
53/1102

10

下編2までを、上編11に変更しました。

12予定だった今回が10となりますが、ストーリー自体は進行していますのでご安心を。


勝手な変更をお許し下さい。



 拳聖が路地に突っ伏した。

 股間を押さえて苦悶している。

「ひ、卑怯(ひぎょう)な……!」

「立派な戦略だよ」

 タガネが剣を鞘に納める。

 勝敗は刹那の内に決した。

 拳聖が発動した『拳撃無双』。

 数多の猛者を殺めてきた必殺の拳を、あろうことかタガネは正面から打破した。

 魔力で複製した四つの拳。

 それらは拳聖と同じ速度で放たれる。

 必殺であり必中。

 奥の手と豪語するだけはある絶技である。

 しかし。

 それはタガネにとって、一笑に付す物だった。

 拳たちは純然たる魔素の生成物。

 魔剣ならば容易く吸収できる。

 昼間の戦闘でも披露したが、魔剣によって防がれる可能性を全く考慮していない。相手を壊滅させてきた自負もろとも砕かれるとは予想だにしていない。

 もっとも。

 対策はできても、対応は難しい。

 何せ拳聖と同等の拳速(けんそく)、まともに体で追える代物ではない。

 防御で受け止められる範疇を逸している。

 所詮、武器は武器。

 使い手の実力次第なのだ。

 だからこそ。

 剣鬼と呼ばれる所以の技が光った。

 先ず、拳の初動とともにタガネは後方へと飛び退いた。

 これで拳と距離を離し、直撃までの所要時間を強引に延長させる。無論、これでも並大抵の剣士ならば対応し(おお)せない。

 飛来する異質な打撃たち。

 それらを斬り払い、最後の一つは胸に達する寸前で消滅させた。

 刃に触れれば、霞も同然。

 拳は魔素となってはかなく散逸(さんいつ)する。

 不覚を悟って愕然とするバーズ。

 驚嘆に価するのはタガネの流麗な剣捌き。

 剣を目で捉えられなかった。

 速度ではない。

 剣の動きが複雑で、かつ鮮やかだったために視覚が処理に追い付けなかった。

 規格外の一言でしか形容しえない。

 そのまま。

 タガネは間髪入れずに懐に踏み込み、その()()を剣の平で強打した。

 無慈悲かつ狡猾。

 急所への打擲(ちょうちゃく)を喰らって。

 筆舌に尽くしがたい鈍痛とともに、バーズは地面にくずおれた。

 男にしか理解の及ばない痛撃。

 バーズが顔を上げる。

 涙目でタガネを睨め上げた。

「その剣、反則だろ……!」

「ご愁傷様」

「ぐぞぅ……」

 不服な結果にバーズが呻吟する。

 タガネは額の汗を腕で拭った。

 これで後はクレスと合流地点で落ち合うだけ。

 獣国侵入前に、二人で作戦を立てた。

 仮に敵の術中に嵌まって分断されたら、所定の地点で再会する約束である。追手を撒くためだったりと、最終手段として用意していた。

 よもや拳聖の襲来で初手になるとは……。

 ともあれ。

 タガネは戦闘終了に一息つく。

 最も危険な障害を退けた。

 あとは捕らえられたリクルの顔を拝むだけ。

「……何?」

 そう安堵したのも束の間。

 魔剣が震動した。

 鞘を内側から叩いて騒ぐ。

 柄を掴んで押さえても止まらない。

 この近辺で強い魔力反応が感知された証拠だ。

 その異常と合わせて。

 屋敷の一部で閃光が弾けた。

 強烈に辺りを照らして、一瞬の後に夜気の闇に溶けていく。物音もしない、ただの光だった。

 魔剣の反応が消えた。

 屋敷の中で何かがあったのだ。

 胸裏を不穏な予感が騒がせた。

 クレスに何かが起きている。

 タガネは肩越しにバーズを睨む。

「じゃあな、拳聖!」

「何処にいぎやがる!?」

「所用があるんでね、介抱は勘弁してくれな」

 颯爽と玄関に向かった。

 扉は開け放たれたままである。

 人の気配は全くしない。無人のような静謐の空気を孕む屋内の様子に違和感は強くなる。

 床や天井、壁……。

 痕跡を探そうと視線を巡らせる。

 足下の異変に気付いた。

 自分の影から、通路の奥へと続く一条の線が延びている。

 思索の必要すらない、影魔法だ。

 クレスの位置を示している。

「この先か」

 線の終端にリクルもいるのか。

 手繰るように線の続く先を追いかけた。

 無人の通路を風となって走る。

 やがて。

 裏口のある通路に躍り出る。

「……ああ、タガネさん」

 そこにいた。

 光の剣をたずさえたリクル。

 そして。

「すまん、剣鬼」

「……」

 床に倒れたクレス。

 タガネは憮然としつつ、リクルを見た。

 リクルは笑顔のまま。

「僕を殺しに来たんですか?」

 冷たい声で訊ねる。

 タガネは剣を抜いて前に進み出た。

 リクルがクレスを一瞥する。

「そこの彼は?」

「町で襲われた(よし)、助太刀に来てくれた知己でね」

 クレスは半ば(はりつけ)状態になっていた。

 手足を光の(くい)で床に固定されている。

 リクルの手元に光る剣と同様の、魔法の産物だろうと推察できる。

 護衛の道中、実力の片鱗すら窺わせなかったのに、こんな能力を秘めていたとは思いもしなかった。

 護衛を雇う。

 刺客をけしかける。

 その手法から、無意識にリクル自身を侮っていた。

 自らでは手を下せない弱者だと。

「本当、どこまでも裏切るな」

「ふふ」

 戦々恐々とするタガネを前に。

 リクルが嫣然と微笑んだ。






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― 新着の感想 ―
[一言] すみません!不快というわけではないです! 私も彼のような脳筋キャラ好きです^_^ 物語を作るのはとてもエネルギーを使う事だと思います。応援してます!
[気になる点] いままでの名無しの刺客は容赦なく切り捨てていたのに どうして拳聖にとどめをささないんでしょうか? 最初に無力化した時点で殺しておけば、今回襲われることもなかったはず。 そもそもバーズと…
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