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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』花
525/1102

11



 ミシェルの顔で血が爆ぜる。

 そのとき。

 タガネは傷口に触れて確信した。

 逆転した影と色変わりした空。

 そして傷からうずく痛みは、表面上は肉体のように見えるが、体とは異なる別の芯に響く。

 まるで――あのときと同じ。

 ベルソートの奸計により、夢の世界に思念体だけで囚われたときの果たし合いで負った傷と同種である。

 変異した世界は、雰囲気が酷似していた。

 つまり。

「これは……魂か」

 タガネは横を見遣る。

 石畳の脇に転がるベルソートが血を吐いた。

 仮に前回の『薔薇の庭園』と同様なら、あの程度の負傷は現実世界へと戻っても、多少は体の動作に障害をきたすものの、時間の経過とともに回復する。

 だが――。

「…………ミシェル」

 頭部を両断された傷。

 あれは果たして――間に合うのだろうか。

 タガネは剣を支えに立ち上がる。

 まだ快癒しておらず、些細な動作が傷に響いて今にも胴が裂けるような激痛を味わう。生命を繋ぐ重要な何かの実感が薄れていく。

 ようよう立ち上がって。

 タガネは前へとゆっくり踏み出す。

「石動涼だ」

「イスルギ……?」

「お、手加減したからやっぱ生きてた♡」

「ッ…………」

 男の首が半回転する。

 タガネは筆舌に尽くし難い不快感を身にした。

 相容れない人間と相対したときは、今まで数え切れないほどあったが、それらは気質や人格に由来する。

 だが。

 この男は全く異なっていた。

 まず、生命としての根幹。

 相手から生気を感じ取れない。

 直感で別の生き物、否、そも生きているかさえ怪しい気配である。

 それよりも。

「イスルギって……何だよ」

「おーまえーのぉごー先祖さーま!」

「マコト」

「ンのお兄ちゃんッッ!」

 マコトの兄。

 すなわち、勇者の親族なのだ。

 これが事実だとするなら、異世界人なのは明白である。

 たしかに。

 将軍が明かした過去の中のヨゾラと男が交わした会話の中には『切咲とは縁がある』と口にしていた。

「おまえさん、も」

「異世界人」

「どう、して……今まで」

「誰にぃいいいも、見えなかったんだぜ」

 男が両腕を広げる。

「この世界にいる、オレ様が」

「首を出しなさい、外道」

「あ?なーん――」

 アカツキが低い声で脅す。

 男は訝って後ろを見た――その首に刃閃が奔る。いつの間にか、抜刀された太刀が振り抜かれている。

 男が首をおさえた。

「ああ!?首が、くくくび、首がッ!」

「…………」

「首が――――あーるっ!」

 男が笑って顔の横で手を振った。

 アカツキが瞠目する。

 狙いは正確、距離も間合いの内、見事に刃圏に収めたものを一刀両断できる技となっていた。

 だが、男は小首を傾げる。

「無理だぜ?」

「な、なぜ」

「ここは世界の裏側、魂だけの世界――『黄泉』なんだからな」

「何なんだ、おまえさんの能力は」

 男の顔が歓喜に歪む。

「勇者召喚」

「…………」

「そのとき、マコトが勇者としての力を全て担った。オレ様が肉体を失い、代わってマコトは身体的なあらゆる限界を超える力を手に入れた。オレ様は最初から、ベルソートやバスグレイ、ヘルベナに認知されなかったがぁ……妹だけはオレ様に気付いていた。

 オレ様に近づく為に、アイツは能力を極限まで高めて……本来なら肉体では触れられない領域にある魂に『触れられない限界を超えた力』を得た」

「魂の領域にある、それがおまえさんか」

「そ。だから――」

 男の姿が消える。

 小さな風の音とともに、タガネの真横に出現し、巨大な包丁が振りかぶられる。

 咄嗟に剣を構えて防御姿勢を取った。

「だからオレ様に尋常な攻撃は効かねえ」

「…………!」

「そして」

 衝撃の炸裂。

 剣をすり抜け、胴に包丁が突き刺さる。

 タガネはそのまま吹き飛ばされた。

「尋常な手段じゃ防げない」

「ぐはっ……!」

 タガネは地面を転がる。

 その胸を男が踏みしめた。

「さあ、愉しませてくれよぉ……あの小娘の予言通りにさぁさあさあさあさあさあ、マコトに並ぶ英雄ってヤツぉよぉおおお?」




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