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城郭から立ち去る五名。
その外出を屋根上から見送る影があった。
瓦の上で胡座を掻いている。
真紅の双眸は、ぎらりとタガネの後ろ姿に視線を定めて光った。包丁で肩を叩きつつ、フードの中で舌なめずりする。
その隣にはキリマルの首が安置されていた。
安らかな寝顔のまま固定された素顔が風に吹かれる。片手でその頬を撫でるや、長い黒髪をつかんで持ち上げた。
円を描くように振り回し。
充分な遠心力が乗った手応えと共に放す。
ひょう、と場内へ飛んでいった。
「やっっられたな〜」
悔しげに。
フードの下で男は呟いた。
タガネが早朝に行ったキリマルへの報告。
男はそれを密かに盗聴していた。
明日には出国する。
それを聞いた以上は、距離を詰めて確実に仕留める男自身の策も急がねばならない。だが、急いても効果を失ってしまう。
一日ずつ。
着実に周囲から人を消していく。
恐怖が高まっていき、強靭な精神すら決壊する最高潮に達した瞬間に倒す。
それが男の策。
これは長い時間を要して効果を発揮するのだ。
だが。
ここで幾人が死のうとも、タガネは明日には出国する。
犯行が『哭く墓』の仕業と判断しての沙汰。
国を出てしまえば築いた恐怖を生み出す状況も無意味となってしまう。
ならば別の地で再実行するか。
しかし、タガネの旅はこの日輪ノ国で最後。
剣爵領地へと帰れば、標的は剣聖姫と近衛団。
精神に大きな影響を及ぼすには好適だが、難易度はぐっと跳ね上がる。
特に、魔剣レインと剣聖姫。
先んじて自分が殺される可能性もある。
タガネ単体の現状。
それが至上だった。
予定を早めるしかない。
つまり、もはやタガネを直接狙うしかない状況となっているのだ。殺しの流儀を弁えた上で策を講じており、見事に男はそれに従うしかない。
だが。
「悔しい顔が見たいぃぃいい!」
絶望の中で殺したい。
そこだけは譲歩できなかった。
男は堪えがたい苦悶に喉を掻きむしる。
その首筋から血が垂れた。
「どっっうする!あのクソ爺も気付き始めてるしいいいい!?」
独り頭を抱えて叫ぶ。
だが。
男が見当たらない警衛は城内を見回す。
叫び声は聞こえるが、それがどこから響いているか、上から差す男の影にさえ気づかない。
堪えることなく放たれた叫び。
やがて男はがくりと項垂れた。
「ま、二十年くらい焦らされたんだ」
幽鬼のごとく男はゆらりと姿勢を戻す。
「よし、殺そう……五人まとめて」




