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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
512/1102

小話「魔除の殻」(11)



 神殿内部へ。

 見張りとして立つ僧兵は二名。

 認識操作により前に二人が立っても、疑う素振りはなかった。レインから離れない限りは、一見で正体を看破されることはない。

 レインが前に手をかざす。

 大気の魔素が大きく渦動していき、広がっていく運動領域に触れた僧兵二名の体内の魔素も漏出して、レインの掌へと吸い込まれていく。

 少しして、僧兵は無言で頽れた。

 レインが裸足で隣を通過する。

 ミストも後に続いた。

「神殿の地下だそうです」

「ん」

「内部構造は――」

「とにかく下」

 神殿に入って。

 早々にレインが床を強く踏み下ろす。

 叩きつけた踵から衝撃が奔った。

 神殿全体が戦慄いて、耐えきれずに床面に大きな亀裂が刻まれる。地底まで侵していく破壊の余波に、やがて足下が崩落を始めた。

 ミストが長杖の上に跨がる。

 片手でヨンを引き寄せて後ろに座らせた。

 瓦解する床とともにレインは落ちる。

 滞空する二人はそれを見届けた。

「崩落が落ち着いたら追います」

「あの娘一人で大丈夫なんですか!?」

「ええ、強いですから」

「何者なんですか……あの娘」

 呆れ半ばにヨンが呟く。

 瓦礫の落下が収まるのを見計らって、二人はゆっくりと降下した。

 剥き出しになった岩室。

 その奥には、地中を進む通路がある。

 レインは既にその先だった。

 瓦礫の山の上を超え、通路へと長杖に乗って滑る。床に降りて、二人は前へと走り出した。

 床を踏む裸足の音がしない。

 レインはもう到着しているのだ。

 落下してから、まだ時間は経っていない。そう長くは無いと予測し、その通りに間もなくして二人は通路の終わりを先に見た。

 前方に灯の光が漏れている。

 ヨンとミストはその中へと迷わず進んだ。

 そこは玄室となっていた。

 矩形の石棺が中央に設えてある。

 だが。

 その上に壁から伸びた鎖に縛られた大男の肉体が乗っている。肌の色は瑞々しい艶を帯びており、逆立った緑の髪は項の部分で波打っていた。

 あの『お守り』通り。

 前に両手を突いて項垂れている。

 大男の体を前にレインは立ち尽くしていた。

 何かを躊躇うように顔を険しくさせる。

「生きてる?」

「……確認します」

 二人は歩み寄って。

 慎重に大男の顔を覗き込んだ。

 白目を剥いていた。

 肌に死後の紫斑は出ておらず、血色も良いとあって死体の特徴はまるで無い。だが、決定的に死亡していると判るのは、胸に大きく空いた孔だった。

 そこからの流血は無い。

 内側を見れば、血管や臓器は脈動していない。

 呼吸も停止していた。

「死んでます」

「……死んでも肉体が残るなんて」

「さすがは魔神戦線前に怪物と言われ、三英雄の一人と戦っただけのことはあります」

「……でも、なぜこんな所に」

「強力過ぎるゆえに」

 ミストは天井を振り仰ぐ。

「地下とは、身近にある不可視の世界」

「…………」

「人にとって地上は自らの生きる土地であり、それより下層にある地下などは、触れることが難しい冥界などの比喩として扱われます」

「あ、たしかに」

「この怪物は、肉体までは滅ぼせなかった」

「はい」

「だから、せめて人の目に触れない冥界……そこに葬ったのでしょう」

 ミストが顔をしかめる。

「魂も無い(もぬけ)の殻」

「それなのに」

「魔獣を退け、エリヤを拒み、人を狂気に陥れる」

「魔除の戦神様というより」

「悪魔ですね」

 ミストは背後を振り返る。

 レインが片手を伸ばしていた。

 肘から先の前腕部が、音もなく魔剣の刃へと変貌する。石棺のそばへと進み出て、頑丈な鎖によって縛られた大男の体へと剣尖を突き刺した。

 その箇所から。

 皮膚がじわじわと黒く変色する。

「あ、あ、い、痛い」

 乾いた唇から声が漏れる。

 二人はぎょっとして大男の顔を見た。

「大丈夫」

「……本当に?」

 レインが首を縦に振る。

 ゆっくりと剣を引き抜いた。

 大男の全身が瞬く間に灰色へと変じて、砂状に崩れていく。

 ――崩壊する。

 ヨンは最後にもう一度だけ大男の顔を見た。

「泣いてる」

 音もなく。

 石棺の上で大男は灰燼に帰した。



 街路では怪物が再起動していた。

 エリヤも催眠から醒めて歌を再開する。

 街が地獄の様相を取り戻す最中、タガネだけは剣を振るっていた。任務が完了するまでの間、街の被害を最小限に留めるべく怪物をきる。

 幾体目かも忘れる途方もない数の手応え。

 数えるのを諦めたタガネの周囲で、人々の悲鳴が声色を変えた。

 歓喜ではなく悲痛な響きに染まる。

 タガネは手を止めて振り返った。

「やったか」

『銀んんンンン!!』

 トーラルの遺体が処理された。

 その瞬間だった。

 上空で静観していたエリヤが急降下する。

 自らを退ける邪悪な力の消失に、全身を震わせながら街へと迫った。

 その直下にタガネが構える。

 長剣の刃に銀の魔力が迸った。

「あとは、おまえさんだけだな」

 タガネは上空へ一閃する。

 白銀の斬撃が放たれ、エリヤを正面から強襲した。

 エリヤは慌てて宙で巨躯を翻し、歯車で受け止める。

 轟音が炸裂し、歯車の一つが破片となって砕けた。

 腰椎の下の首が苦鳴の声を上げる。

「そら、もう一つ」

 タガネはもう二閃を追加した。

 エリヤが滑空して回避する。

 そのまま空へとふたたび上昇し、夜空の中へと消えていった。タガネの目からその姿が目視できなくなると、街中を貪り尽くす怪物たちが一斉に泥状となって潰れる。

 鼻腔が拒絶反応すら催すほどの悪臭。

 タガネは鼻を手で覆った。

「迷惑なもん残しやがって」

 悪態をついて。

 剣の血を払い落とす。

 トーラルの遺体の破壊、エリヤの撃退。

 二つが完了した今、あと迎える脅威は抑えられていた魔獣たちのみである。まだ悲鳴が止まない街の様子から、迎撃体制はどうあっても整わない。

 タガネはひとり嘆息した。

「もう一仕事するかね」

 地図を開く。

 胎窟は東部に密集している。

 襲撃もその付近からと予測し、タガネは東に向けて歩み出した。




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