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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
497/1102

小話「魔除の殻」⑵



 遂に検問に辿り着いて。

 だが待機時間に比して審問(しんもん)はたった数分。

 内容もまた簡潔(かんけつ)だった。

 自身が潔白といえど、いささか警戒意識が薄いのではとヨンは心配すら抱く。後ろの二人組も、特段変わったことはなく入国許可を得た。

 検問を()えて二人で入る。

 街道を辿って進んだ。

 ここから一刻ほどで中心都市に着く。

 ――いよいよだ。

「楽しみですね」

 ヨンは心做(こころな)しか声が弾んでいた。

 その機微に気づいてミストは微笑む。

 変わらず険相のタガネは、注意深く周囲を見渡していた。警戒――ではなく、その瞳には疑念(ぎねん)が色濃く渦巻いている。

 改めて二人組の風采を眺めた。

 一方はたおやかな女性。

 鳶色の長髪と、眼鏡の奥で慈母(じぼ)めいた優しい雰囲気のある眼差しを向ける蒼い瞳。紫のローブの裾の下で、長靴(ちょうか)の爪先を淀みなく進ませる。

 小柄なその背丈を上回る長杖。

 一目で魔法使いとは察知(さっち)できるが、あどけなさのある顔立ちともあって年齢については、少し推し量ることをしなければ見誤るほど若い。

 対して。

 隣は長身の男性だった。

 風に揺れる稀有な銀の頭髪(とうはつ)

 端正な顔立ちも、だが鋭い灰銀の眼光によって好感よりも恐怖が優る。着古した黒コートの長裾(ながすそ)、その腰元で鞘から覗く奇怪な(こしら)えの剣がぎらりと光った。

 まるで全身が抜身の剣な印象を受ける。

 体格といい、雰囲気といい。

 明らかに対照的な二人であった。

「お二人はいつから交際を?」

「つい最近からですよ」

「知り合ったのは?」

「そうですね……十年以上前、ですね」

 ミストが目配せする。

 銀の瞳が一瞥で応えた。

「要塞を(おと)した戦のときだな」

「は、はあ」

 ヨンはタガネを見る。

 いま思えば。

 ミストの荷物が明らかに少ないのは、隣にいる彼がそれら全てを担っているからだ。片手の(ひも)で吊っているとはいえ、一人分にしては少し多い。

 妻への気遣(きづか)いが見て取れた。

 ヨンは感心してうなずく。

「結婚への切っ掛けは?」

「もし」

「あ、ちょ」

 タガネが脇道(わきみち)へ逸れる。

 路傍を進む馬車の商人へ歩み寄った。

 質問を遮られてヨンは膨れっ面になる。

 (うら)みがましい視線も意に介さず、タガネは商人のそばへ。

「ちと訊ねたいんだが」

「んん?」

「ここらは魔獣も寄らんって噂だが、おまえさんは知ってるかい?」

「ああ、『戦神(ヴォルムント)』様の力さ」

「戦神様」

 商人が先を指差した。

「この先に都市があるのはわかるな?」

「ああ」

「そこに(ほこら)があるんだが、昔ここいらで戦っていた立派な戦士がいるんだとさ。強すぎる肉体が、死後も(くさ)らずに残っていて……どうやら、そのお蔭か胎窟(たいくつ)からも魔獣が寄らなくなったとか」

「祠、か」

「ただ」

「うん?」

「どこにあるかは分からない」

「…………」

「ただ、あるってことだけは街が宣伝(せんでん)してる。神聖だからお目にかかるのはご法度(はっと)らしい」

「そうかい」

 タガネは颯爽と二人の下へ戻る。

 質問料を請求する商人を黙殺した。

「何を訊いたんですか」

「教える義理は無いね」

「…………」

 ヨンは視線をミストへ移した。

「旦那さん、意地悪すぎます」

「可愛いでしょ」

「えー……」

 ヨンがじろ、と見る。

 タガネは気にも留めず先を見つめていた。

 ふと、彼の腰元で剣が震えているのを認める。

 かたかたと。

 音を立てて揺れていた。

 それが何故か、不吉に思えて仕方がなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] ああ~ レインちゃんが察知してるぅ(((((゜゜;)
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