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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
幕間
487/1102

小話「死神の進軍」⑥



「ねえ、聞いたー?」

「何がだよ」

 食堂でライアスは食事をしていた。

 正面ではミラが頬杖を突いている。

 何かを食べるわけでもなく、ライアスのことを見つめているだけだった。

 退屈や不変を嫌う彼女にしては、ただ一箇所を見つめるという明らかに暇を持て余すことを厭うはずが、ライアスを眺めて屈託は無さそうである。

 あの男の稽古を受けてから七日。

 日々いる地点を変える男に鍛えて貰っている。

 タガネ自体が多忙であった。

 特にこの七日は顔すら見ていない。

 その代わり。

 あの男の修行が空白を埋める。

 タガネとは異なる視点からの指導。

 これが新鮮さと未知の発見に富んでいた。

 その分、やり甲斐に満ちている。

 一方で。

 ミラは独自で特訓に励んでいた。

 互いに自身のことに注力していた所為で、二人がこうして会うのもライアスは久しく感じた。

 異様に機嫌のいいミラの様子。

 ライアスは不審に思って顔をしかめた。

 ミラは微笑みで対する。

「犯罪国家の噂」

「またその話か」

「またって、その話できなかったしー」

「ああ、そうだっけ」

「もー!」

 ミラが頬を膨らませる。

 ライアスは嫌気がさして顔を背けた。

「それがどうした」

「最近、その犯罪国家が滅ぼされたんだけどねー……その国の元指導者が、復讐にレギュームへ来てるんだってさ」

「レギュームに?」

 ミラが頷く。

 心做しか表情は期待感に輝いている。

 ライアスは嫌な予感がして睨んだ。

「おい、お前」

「あー、もう分かったー?」

「その指導者と戦うってのか」

「ワタシとライアスならやれるよー!」

「命知らずめ」

 ライアスは首をひねった。

 犯罪者を束ねる指導者となれば、相応に実力と高く、実戦経験も豊富である。ディーンオーズの迷宮探索や、タガネによる実戦訓練で幾分か鍛え上げられていても心許ない。

 そんな未熟な状態で対決はできない。

 最初から無謀無策に等しい愚挙である。

「俺はお断りだ」

「えーっ!?」

「死にたきゃ一人で行け」

「でも、でも、でも……」

「なんだよ」

 ミラが唇を尖らせる。

 机の下でライアスの足を蹴った。

「いてっ」

「最近ライアスと一緒になれないしー」

「たった七日だろ……てか、その方が助かるんだけど」

「いーやーだー!」

「…………」

「二人で思い出作りしたいー!」

 ライアスは立ち上がる。

 目標として見据えている存在が眼前で叫ぶ。

 歳不相応に幼気な様に長嘆を禁じ得ない。

 ミラは机を拳で軽く叩く。

「魔獣狩りに飽きたー!」

「魔獣狩り?」

「最近はそればっかーり」

「…………!」

 魔獣との対戦。

 それは実戦の一つとして効果的だ。

 人と異なり、一切の容赦がない。

 魔獣とは、目を合わせた瞬間から命の奪い合いへと発展する。タガネに連れられることはあるが、まだ時期尚早と頻度は低い。

 それを。

 ミラは単独で行っているのだ。

 危地で練り上げる。

 つくづく相手が上手だと知らされた。

 悔しさにライアスは歯噛みする。

「くそっ」

「あ、ライアス……」

 手を伸ばすミラを置き去りに。

 ライアスは一方的にその場を立ち去った。



 騎士学校の裏庭で。

 男は一人で立っていた。

 その足下に魔法陣が明滅する。

 一度触れれば、それは地面に隠れた。暗紫色の髪の下で、獰猛な光を瞳が帯びる。

 立ち上がって大剣を抜いた。

「あと一つ」

「人の庭で何してるのよ」

「来たか」

 男は背後を肩越しに見た。

 銀剣を帯びた女性が立っている。

「剣聖姫マリア」

「死神ザグド」

「……どうやら、互いに人違いという言い訳は通じないようだ」

「私目当てで間違うことあるのかしら」

「それも、そうだな」

 マリアが銀剣の鞘を払う。

 暗紫色の髪の男――ザグドは大剣を掲げた。

 裏庭の空気が冷たく張り詰める。

「噂を流してるの、アンタでしょ」

「ふふ」

「迷惑なヤツね」

「虚偽の目撃情報も幾つか流した。これで……貴様を護るあの銀の剣士は……否、剣聖が来るまでの時間が稼げる」

「最低ね」

 平和の象徴たるレギューム島。

 その中で不穏な噂などあってはならない。

 この男ザグドの存在は、いよいよ害悪としての本性を顕にしていた。

 剣を構えて立つ。

「古代勇者の力を思い知れ」

 ザグドは地面を強く蹴って飛び出す。

 マリアの銀剣が閃いた。


 その後。

 あの剣聖姫マリアが意識不明の重体で裏庭に倒れているのを発見され、レギュームは騒然となった。




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