5
もう面会は始まっていた。
正装に着替えたリクルは笑顔を作った。
リンフィアを隣に座らせている。
正面に腰を下ろして対面するのは、黒い詰襟の服に身を包んだ青年であった。リンフィアによく似た精悍な顔立ち、獣の耳を持つ。
獣国の防衛大臣フォクス・クレンターナ。
若年ながら国境警備を委任された気鋭である。厳かでありながら親近感の湧く不思議な雰囲気だった。
片手に茶を啜っている。
正面のリクルを赤い瞳が見据えた。
「妹を救ってくれたこと、礼を言う」
「いえ、そんな」
リクルは胸前で手を振った。
慇懃な態度と、その穏やかな笑みは、いつもの彼だった。
リンフィアは慄然としてその横顔を見る。
フォクスがコップを机に置いた。
「五年前の戦争は悲惨だった」
「ええ」
「父が死に、妹が捕虜になって……」
「……心中お察しします」
フォクスが言葉に詰まった。
胸裏に渦巻く感情が抑えられないようである。
リクルは神妙に頷いてみせた。
「君から話が来たとき、疑ってしまった」
「仕方ありません」
「本当にすまない」
「無事に妹君を返せて、本当に良かった」
フォクスが背筋を正す。
そして、額が卓につくほど深く頭を下げた。
「本当にありがとう」
「いえ」
「微力ではあるが、あなた方が困ったときは我々が援助しよう」
リクルが苦笑する。
その後、深刻そうに顔を伏せた。
フォクスが変化を察知して顔を覗き込む。
「どうかされましたか?」
「実は……帝国の状況はご存知で?」
「ええ。いま戦争中でしたね」
「はい。そこで実は――」
リクルが訥々と話し始める。
フォクスは、その内容を傾聴した。
亜人種待遇の緩和政策を筆頭とした改革活動をおこなうリギンディア派が、いま国境戦線の騒乱に紛れて排除されようとしていること。
それは。
リンフィアの知らないことばかりだった。
今まで見なかった一面。
革命者としてのリクルだった。
真剣に耳を傾けたフォクスが深くため息をつく。
リギンディア派の活動への賛嘆。
現帝国に呆れた感情がにじんでいた。
「そうですか」
「はい」
「良ければ、私から獣国中枢に掛け合いましょう」
「そ、それは難しいのでは……」
フォクスがリクルの肩を叩く。
「命を賭して、我が妹を護ってくれた」
「……」
「その勇気ある行為は、獣国にも理解されます」
「ありがとうございます……!」
感極まってリクルは声が震える。
これも……本当なのかな?
リンフィアは謎の恐怖に駆られて黙っていた。
面会で交わされる話の内容は進んでいく。
リクルは。
誰にもわからないようほくそ笑んでいた。




