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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』芽
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16



 部屋の中心へ。

 ベルソートは蹌踉(そうろう)と進み出た。

 タガネの隣へと並び立つ。

 ローブの乱れた裾を捌き、暴れた髭を撫でつけて整える。やや争いの痕跡が節々に見受けられる様子に、タガネが訝しんで睨んだ。

 誤魔化すように嗄れた声で笑う。

 円錐の帽子の頭頂(とうちょう)が潰れていた。

「何してたんだい」

「何もしとらんよ」

「…………」

「ワシって信用ないのぅ」

「帽子」

「ん?……げっ」

 ベルソートが(あわ)てて帽子を直す。

 呆れ返って一同が沈黙する。

 襖を蹴り倒した闖入者(ちんにゅうしゃ)としては拍子抜けも甚だしかった。特にタガネは露ほども隠さず、嫌悪を表情に出している。

 カムイは太刀を手にしていた。

 ベルソートが咳払(せきばら)いをして。

「いんや、すまんのぅ」

「……何者だ、老人」

「ワシは、ベルソート。まあ、ヌシら切咲とは浅からぬ因縁が……あるって信じたい」

「なに?」

「ワシから提案があるんじゃが」

 ベルソートが指を鳴らした。

 その瞬間。

 彼とタガネ、カムイを除いて世界が停止する。

 破格の魔法。

 それはときに、神の奇跡にすら(あたい)する。目にした者には、何事かなど想像できない。

 無論。

 ベルソートとの交戦経験のあるタガネも、未だに慣れていない。

 唖然とする二人の前でベルソートは笑う。

一旦(いったん)保留とせんか?」

「……何だと」

「今のタガネに尋常な判断力は無いわい」

「…………」

「少しは整理する時間が必要じゃろぅ」

「ちっ」

「……了解した」

 帽子の下から目配せ。

 タガネは気まずくなって顔を背けた。

 カムイは好機を(いっ)したとあって内心で舌打ちしつつ、渋々と承諾する。太刀を床に下ろして再び床に腰を下ろした。

 再び指で合図する。

 世界が時間停止の束縛(そくばく)から解かれた。

 周囲が色と動きを取り戻す。

「ならば、どうする?」

「タガネは旅人じゃ。しばし(ここ)を見ながら頭の中を整理する時間も必要じゃろうて」

「……了解した。では、部屋は城内に用意しよう。……アカツキ」

「はっ」

 カムイの声に少年が応える。

 太刀を片手に、襖の前で小さな影が跪く。

 タガネは振り返った。

 自身の監視としてつけられている人物である。

「部屋まで案内しろ、老人と……そこにいる小娘もだ」

「はい」

「滞在中は、お前は傍を離れるな」

「御意」

 タガネはカムイを見た。

「今日は休め」

「…………」

「この国がお前にとって、どう映るか」

「ふん」

 タガネは背を向けて部屋を出た。

 得た情報を改めて整理しながら歩く。

 その前をアカツキが歩んだ。

 ミシェルが隣へと小走りで並ぶ。

「大丈夫だったっスか?」

「まさか侵入してたとはね」

「師匠が指定したっス。あたしは反対したんスけど」

「あの爺らしい」

「じゃろぅ?」

「黙ってろ」

 タガネは肩越しに後ろを睨む。

 ベルソートは苦笑した。

「ヨゾラの話を聞いて、どうじゃった?」

「…………遺憾ながら」

「む?」

「おまえさんの言う通りだった」

「…………」

「生まれたことを後悔した」

 ベルソートが押し黙った。

 忠告した通り。

 ヨゾラの咎はタガネの心を蝕む。生きる指針ですらあった人間が、己を復讐の道具として生み出したということである。

 本人がそう思っていたかは定かではない。

 ただ。

 切咲から聞いた話で見た一面では悪人だと判断はできた。いつか切咲を脅かすための災厄として、自身が生き延びるために殺人鬼と交渉する材料として生まれる前から使われている。

 生きたことを後悔しない。

 そんなことはなかった。

「でも」

「…………?」

「俺を想ってくれてるヤツがいる。それだけで……今生きてる意味があるってもんだろ」

「……良かったわぃ」

 ベルソートは安堵する。

 だが。

 タガネの顔には未だに色濃い陰りがあった。






ここまでお付き合い頂き、誠に有り難うございます。


ラスボス→ケティルノース。

真ラスボス→ベルソート。

裏ボス→……………のような感じになっていますね。因みに、次回はほのぼのと観光しつつも、やはり剣呑に裏で物事が進んでいきます。




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― 新着の感想 ―
[良い点] タガネの心を支えてくれる人が昔より着実に多くなってて嬉しい。 [一言] 前の話にあったラテン語とかの複数の地球言語とかがやっぱり気になりますね。初代勇者以外に地球に関連する要素が何かしらあ…
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