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その国は常に日の光を浴びる。
影は無く、常に世界の中心と自負する。
だから。
暗闇や夜に由来する名を授けることだけは禁じられていた。それこそが国の沽券にも関わり、冒涜にも繋がる。
ただし。
稀に禁忌の名を有する者はいた。
それは転じて国の災厄である。
とある一家にて。
広大な敷地の中に設けられた庭園で遊ぶ一人の子供がいた。生まれながら類を見ない美を持ち、その身が太陽であるがごとく目にした者を不思議と高揚させる。
その少女は一族の愛すらも一身に享けた。
誰にも妬まれず。
誰にも謗られず。
誰かに傷つけられもしなかった。
なので。
その少女は徒に他者を罰した。
何をすれば、己は誰かに害されるか。その追究の果てに、彼女は一人の人間の首を刎ねる。無罪の民を選んで、家族に罰するよう願った。
すると。
家族は、これを快諾した。
間もなくして、罪人として処刑された。
私怨も無く、そもそも顔見知りですらない。
冤罪なのは明白である。
それでも家族は処刑を実行した。
「どうだ、殺したぞ」
「あなたの為よ、喜んで」
「さあ、あの笑顔を見せておくれ」
口々に反応を求める。
少女に喜ばれたいが為だった。
そして。
「この命、貴女様に捧げます」
処刑された無辜の民。
彼さえも死に際に少女の喜びを願った。
快く首を差し出し、物言わぬ肉塊となって転がる。
ようやく。
少女は周囲の異常を察した。
日の下に照らされる国。
何処よりも明るい故に、本来影にある人の醜悪さすら発露する。
初めて。
「わたし、ここが嫌い」
少女は憎しみに顔を歪めた。
そのときから、日は沈み始めた。




