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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話「境の逃げ宝」上編
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10



 深緑のみなぎる森を左手に見て。

 タガネたちは崖の上から南の風景を眺望する。

 遠くには南西の検問。

 獣国全体は堅牢な壁で囲われている。

 領土じたいは王国ほども無い。

 それでも、亜人固有の人間を上回る身体能力などの兵力は、数こそ劣るが他国の侵略を退けて領土を確保するだけの力がある。

 人の国に寄す処のない異形たちが()り沿い合ってできた国。

 これから、そこへ踏み込もうとしていた。


 検問前の町に着く。

 タガネ一行を包む空気が少し和らいだ。

 獣国は王国との親交がある。平等政策を実施してから、友好的に貿易を行っていた。

 賑わう巷に人種の隔たりは無い。

 検問を正面に見据えて続く一本道。

 その両脇に並ぶ店は特産品が並んでいた。

 文化の混淆(こんこう)した風景は、この町特有の彩りである。

 タガネは返り血のついたコートを脱ぐ。

 (たた)んで脇を抱える。

「ようやく手前だ」

「そ、そうですね」

「はは……つ、疲れた」

 タガネの背後で。

 明らかに顔に憔悴の色を湛える三人。

 河原から襲撃がぷっつりと途切れ、追手らしき影も無い。やや休息を取らず足を急かせたのもあり、狙われている者の精神的負担も相まって疲労がありありと窺える。

 タガネが背後を顧みた。

「依頼は獣国まで、だったな」

「ええ」

「検問まで送れば良いな」

「え?中に入らないんですか」

「無理だ」

 タガネがコートを掲げて見せる。

 リンフィアが小首を傾げた。

 返り血の付いたそれが原因なのか。

「血の臭いがするだろ?」

「え、はい。……あ」

 コートからは、確かに血臭がする。

 しかし、その中に独特なものが混じっていた。亜人種だからこそ嗅ぎ分けられるほんの小さな徴憑(ちょうひょう)だった。

 リンフィアが鼻を手で覆う。

「亜人種の血」

 それは、河原で斬った熊の亜人の血。

 まだ新しいからこそ臭いも強烈だった。

 だからこそ。

「これだと、亜人狩りだと誤解される」

「あ」

「検問で捕縛される」

 亜人を虐げる思想の持ち主。

 それは獣国にとって断罪すべき悪である。

 たとえ無実の罪でも、容疑をかけられた時点で敵視は免れない。国境を跨ぐことはなおさら出来なくなる。

 タガネは肩を竦めた。

「だから、おまえさんらだけで通れ」

「でも」

「臭いは十日は落ちんだろう」

 リクルへと視線を移す。

 彼はそれを承知してうなずいた。

「報酬は後日届けます」

「……ああ」

「では、僕らは宿の予約をしますね」

 リクルがシュバルツを伴って宿へ向かう。

 タガネはその背中を見ながら。

「リンフィア」

「あ、はい?」

「リクルと出逢ったのは、いつ、何処だ?」

「ええ、そんなに気になります~?」

「……ああ」

 苛立ちつつも。

 リンフィアに訊ねた。

「五年前です」

「たしかガーディア戦争か」

「ご存知なんですね!」

「まあ」

 タガネは思わず視線を逸らす。

 ガーディア戦争は、侵略を企む帝国と獣国の間で起きた争いである。ガーディア平原で十三日間にわたった長丁場の戦だった。

 そのとき。

 タガネは帝国側に雇われていた。剣鬼として有名になった戦の一つである。

 リンフィア相手には複雑な心境だった。

「そのとき、私も近くにいて」

「あ、ああ」

「獣国の防衛大臣が討ち死にして」

「……知ってる」

 何せ。

 討ち取ったのはタガネである。

「獣国の勝利で終わって、国境の砦の跡地に来たときにリクルと」

「出逢ったのか」

「はい。そこで花を」

 タガネは眉根を寄せる。

「そのとき、跡地に咲いてたのか」

「え、いいえ」

「……なるほどな」

 タガネは頷いて、眉間のしわを険しくさせた。





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