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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』種
407/1102



 切咲家の長男にして当主候補筆頭(ひっとう)

 その名もリュウマ。

 今後において最悪の敵になる人間だ。

 実力と人望は跡目争いの面子でも随一(ずいいち)を誇る。

 絶対必要条件を満たす子がいない。

 そのため。

 切咲の当主選びは(いさお)の数に決する。

 功績重視による跡目争いが始まった。

 そんな現状で、唯一その窮地でも燦然(さんぜん)と輝いて周囲の目を引く戦闘力を有しているので、次期当主の筆頭と目された。

 それが数年前。

 海外の戦場で活躍する鬼の逸話(いつわ)

 銀髪銀瞳(ぎんぱつぎんどう)の凶悪な戦士の噂をふと耳にした切咲家は、道具に由来する名を聞き及んで調査したところ、始末し損ねた血族の追放者の子と発覚した。

 最悪なことに。

 当主として最適(さいてき)の資質を有する。

 これによってリュウマは失脚(しっきゃく)も同然の扱いとなった。

 血眼になって切咲家の当主はタガネを手に入れんとする。

 跡目争いは有耶無耶となった。

「つまり」

「恨まれてるっスね」

「……面倒なこって」

 タガネは嘆息混じりに呟いた。

 ミシェルも苦笑いになる。

「それに、かなり悪質(あくしつ)らしいっス」

「悪質」

「暗殺も強引な略奪も(いと)わない上に狡猾」

「ずいぶん過激だな」

「気をつけて下さい、罠を張り巡らさてるっス。」

「ははっ」

 タガネは失笑した。

 どこへ行っても欲望が渦巻いている。

 身を投じるのは、いつも破滅的な状況にまで堕ちたときだった。だからこそ(タガネ)は、硬く、鋭く、より強くなるよう血によって研がれてきた。

 今回もまた同様。

 いつもと同じ修羅場(しゅらば)である。

 呆れを通り越して。

 そこには懐郷(かいきょう)の念すらあった。

「来るなら斬るだけだ」

「…………」

「場合によれば鏖殺(みなごろし)もありうる」

「タガネ先輩なら簡単っスよ、絶対」

「やけに信頼するな」

「そりゃ、そうっスよ」

 ミシェルは朗らかに笑う。

 その脳裏には、ある記憶が呼び覚まされていた。

 数年前。

 ベルソートに見出されて弟子になった。

 師の旅に短期間だが同伴(どうはん)したことがある。

 その道中で立ち寄った戦場。

 参戦はせず俯瞰(ふかん)する形で見ていたそこに、途轍も無い強さを誇る狂戦士の姿を目の当たりにした。

 その戦士が所属する部隊。

 自身と数名を残して全滅し、降伏無用(こうふくむよう)という理不尽な残党狩りに遭っていた。

 絶望的な状況下で。

 戦士は独りで敵を斬り払う。

 笑いながら返り血を浴びる。

 逃げ果せるまで、全方位を囲う騎馬や敵軍の将軍を含む五百余人を斬り伏せ、血の海を足跡(あしあと)に去っていく後ろ姿で残る七百相当の兵に追討(ついとう)を諦めさせた。

 後の『五百人斬り』と呼ばれる伝説が誕生させた化け物。

 その正体は――まだ十ニの少年である。

 目にしたからこそ理解(わか)った。

 隣の男の破格の強さは切咲も退ける。

 一目でそう確信させられた。

「どうした?」

「何でも無いっス」

 頭を振って思考を中断する。

「師匠が言ってたっスよ」

「うん?」

「史上最強の剣士だって」

「ベル爺の戯言(たわごと)を真に受けんでくれな」

「あの人にしては真剣でしたよ」

「どうだか」

 タガネは肩を竦める。

 それから街道の先を見据えた。

「とにかく進むか」

「そうっスね」

「道中で刺客に襲われなきゃ良いが」

「そしたら、あたしを守ってくれっス」

「……余力があったらな」

「余力!?」

 絶望するミシェルを無視して。

 タガネは東へと街道を進んでいった。



 それと同時期。

 剣爵領地の出口でマリアは仁王立ちしていた。

 彼女の眼前でベルソートは正座している。

「アイツには手を出さないこと」

「はい」

「邪魔をしないこと」

「はい」

「助けること」

「はい」

 紺碧の眼差しは冷たく睨む。

 その眼差しだけで、ベルソートは全身に冷や汗をかいていた。タガネの余興として捉えていた人物だったが、彼とは異なる迫力があって萎縮(いしゅく)させられる。

 特に。

 その片手に握られる聖剣が恐ろしい。

 使い手(タガネ)に相当する実力者しか握れない性質があるそれを提げている。

 それが実力の証明だった。

 軽挙に出ればベルソートも無事では済まない。

「アイツが帰って来なかったら」

「こ、来なかったら?」

「アンタの首を刎ねるから」

「りょ、了解したわい」

 ベルソートは両手を挙げて了解したのだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正座は、させられているんじゃないですかね
[一言] やっぱりマリアはつえぇ(*´∀`*)
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