表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話『夜遠し』種
404/1102



 タガネはその場に立ち尽くす。

 自身を探す足音がそこかしこに跋扈(ばっこ)する。

 早く身を隠さなければならない。

 ところが。

「何だい、あれは」

 一軒の家屋から伸びる手。

 薄く開いた戸の隙間から伸ばされたそれは、長いタガネの沈黙にも臆さず、ひたすら手招きを続けていた。

 剣聖と呼称(しょうこ)した声。

 それは腕の正体のもので相違ないはずである。

 切咲家による流布で将軍に仕立て上げられた風評(ふうひょう)には業腹だが、剣聖の称号までが膾炙(かいしゃ)していることも想定外だった。

 そもそも。

 剣聖の称号は切咲にとって忌むべきもの。

 すでに外界で確固(かっこ)たる地位を有する。

 死人扱いとはいえタガネを将軍の座に着けるのは至難だ。

 国民にそこまで情報を流すことに利得(りとく)がない。

 ならば。

「おまえさん、異邦人か」

「そう、そう」

「どうしてここに」

「いいから、いいから」

 手招きは続く。

 タガネは眦を決してその家屋に飛び入った。

 急いで後ろ手に戸を閉める。

 外で足音が過ぎ去っていく。戸の前に立ち止まる者がいないことに安堵(あんど)しつつ、タガネは屋内を見回す。

 そこに。

 小柄な少女が座っていた。

 円錐形の頭と広い鍔の帽子を被り、軽く編まれた金の長髪が灯籠に照らされて(つや)に濡れ光る。円な碧眼がタガネの姿を映していた。頬はかすかに上気しており、その興奮(こうふん)を示すようにやや太い眉がひくついている。

 訝るタガネに対して。

 ローブの袖から伸ばした手を差し出す。

「待ってたっスよ、剣聖!」

「……待ってた?」

「正確には待たされた感じっスけど」

「頼んでない」

「頼んだのはあなたじゃない」

「なに?」

 金髪の少女は笑う。

 風体から魔法使いであることはわかる。

 知り合い――思い出すのも嫌な魔法使い――と同じ格好(かっこう)とあって容易に察せられた。

 それよりも。

 注意すべきは彼女の目的である。

 タガネの来訪を予期した誰かに依頼(いらい)されて待機していた、という口振りだった。

 依頼主はタガネの関係者である。

 日輪ノ国来訪を関知(かんち)しているとあれば、それはマリアや剣爵領地の者、これまでの二年半の旅路で再開した顔馴染みたち。

 あとは――。

「ベル(じい)か」

「ご明察っス!」

「あいつはどうしたんだい?」

「それがっスね……『いつ剣聖が来るか分からんので、逗留先は見繕(みつくろ)っとくから手助けしてやれ』とのことっス」

「……いつから?」

「二年くらい前っス」

「ずっと、ここでかい」

「ええ」

「あの爺、斬るか」

 脳裏に浮かんだ老人の笑みを恨んだ。

 タガネは舌打ちする。

 たしかに、合流すると予告されていた。

 それが、よもや時期が判らないので他人を寄越(よこ)しているとは露知らず、あまつさえ二年も異邦人には肩身(かたみ)の狭い国で待機させる。

 ベルソートを恨むべきか。

 報せなかった己の失念を叱るべきか。

 タガネは嘆息した。

「二年の長逗留、ご苦労だった」

「えへへ」

「悪いが、今の俺の持ち合わせでおまえさんに償える物がねえ」

「いいっスよ、存外楽しかったし」

「そう言ってくれると助かる」

 タガネは項垂れた。

 自分も大概だが、ベルソートの身勝手は想定(そうてい)を遥かに上回る。

 罪悪感に苛まれるが、少女の器量(きりょう)の良さに救われた。

 タガネは嘆息する。

「改めて、傭兵のタガネだ」

「ベルソートの四番弟子ミシェル、よろしくっス!」

「弟子」

「まあ、三千年で四人目って意味っス」

「ほう」

 金髪の少女ミシェルが胸を張る。

 大魔法使いが弟子として見込む。

 それも三千年という長い歴史で四人目となれば、よほどの潜在的資質が無ければ選ばれないだろう。

 素直に感心して。

 タガネは目を大きくした。

「そりゃ大層なこって」

「まあ、名ばかりっスけど」

「うん?」

「少し特殊魔法が使えるってだけで、まだ『時元魔法(じげんまほう)』の習得には至ってないのが悲しい現状なんスよ」

「見込まれるだけでも立派なもんだ」

「あの人にそんな深い意味あるっスかね?」

「それは知らん」

 タガネは即答(そくとう)した。

 ミシェルが苦笑する。

「それより」

「はい?」

「なぜ依頼で俺を待ってた」

「それはっスね」

 ミシェルは微笑んだ。

「あたしの任務は一つっス」

「任務」

「『ワシが来るまで剣聖を頼む』とのこと!」

 まるで誇るように。

 ミシェルは自身の胸を叩いて宣言した。

 二年もの潜伏を経てついに実行される依頼内容。

「……絶対に斬る」

 改めて。

 脳裏に浮かんだベルソートに恨みを募らせるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ぶった斬っちまえ(#`皿´)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ