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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
後日談、その三
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小話「剣の精霊」②



 二刻を要した道のり。

 東の街に到着したのは夕刻となった。

 検問を通過し、颯爽と宿へと向かう。

 明日の午後に依頼主と合流するまでに体力の回復に努める。前日からチゼルは既に仕事の態勢に入っていた。

 阻害しないよう。

 ダウルは気を配って行動する。

「今日は何が食べたい?」

「明日に身軽になれる物」

「軽くか」

 ダウルは献立を考えた。

 胃に重く残らない物を所望している。

 チゼルの意を汲み取って思案している最中、ふと彼女の背中の大振りな長剣と、腰に帯びた小振りな剣を見遣った。

 ダウルはうん、と唸る。

「前から訊こうと思っていたけど」

「うん?」

「背中の剣、私が預かろうか?」

 ダウルが背剣を指摘する。

 チゼルは肩越しに見て苦い顔をした。

 これを使用した機会を、ダウルは一度も目にしたことがない。理由を尋ねると、使わないのではなく使い熟せないのである。

 鞘ぐるみなら誰にでも持てる。

 だが。

 余人が柄を掴むと、魔素を吸われて昏倒してしまう。中には重篤な症状に陥った者さえもいた。

 チゼルだけが抜ける剣。

 ただし、彼女でさえも凄まじい重量のあまり、剣速が損なわれて戦闘に支障を来す有り様。日頃の鍛錬によって少しずつ扱えているが、その進捗も微々たるものである。

 つまり。

 次の護衛任務でも役には立たない。

 それでも、チゼルは拒否した。

「これは僕が持つ」

「邪魔にならないのか?」

「うん」

 人の魔素を吸う剣。

 まるで『剣聖英雄譚』に描かれる英雄が手にした伝説の魔剣に似ているが、壮絶な試練の果てにしか獲得できない代物であり、ここにあるはずがない。

 金品以外の所有物で、チゼルが珍しく執着を見せるのは、その剣のみである。

 ダウルは小首をかしげた。

「それなら構わないけど」

「うん?」

「それが原因でチゼルに死んで欲しく無い。無理はしないで、何かあればしっかり言え」

 心から案じる声。

 チゼルはふ、と微笑んだ。

「頼りない」

「うぐっ」

 辛辣な一言が突き刺さる。

 ダウルは胸を押さえて呻いた。

 昼間の出来事もあって、その言葉の有する威力は平生の倍以上ある。チゼルには彼の助勢はあっても無くてもほとんど差異が無い。

 彼女の瞳に呆れの色がにじむ。

「依頼人はここの領主」

「ふむ」

「ちと知己の催す宴会があるとかで足を運ぶんだが、このご時世だと外出も怖いんで往復の護衛を任されてる」

「帰りはいつになるんだ?」

「うん、と……一応は十日」

「じゃあ、私は(ここ)で待つよ。道中で採取した材料で薬でも作り、少し商売でもするか」

「別に待たなくて良いんだが」

 チゼルは小さく呟いた。

 ダウルは聞き取れておらず、この街で展開する自身の(たな)について思考を巡らせる。チゼルを待たないという選択肢は念頭にすら無い様子だった。

 一瞬だけ呆気に取られて。

「……やれやれ」

「どうした?」

「いや、別に」

 チゼルは我知らず笑った。

 それぞれの仕事に沈思して、いつの間にか宿に到着する。彼女が空室の確認などをして、二人分の手続きを済ませた。

 その間もダウルは熱心に仕事のことに集中していた。

 だが。

 宛てがわれた部屋の前に立つ。

 そのときに彼は我に返った。

「チゼル?」

「なんだい」

「手続きを任せてしまったことは謝るけど……私の部屋は何処に?」

「同室」

 チゼルが扉を開けて入室する。

 ダウルが額を手で押さえた。

「チゼル……」

「なんだい?」

「本当に同室か」

「同室」

「なんで」

「安いから」

「だから同室なのか」

「くどい、文句があるな――」

 その瞬間。

 チゼルの両肩が掴まれた。

「少し話をしようか」

 必死の形相のダウル。

 その表情から先の展開を察したチゼルの顔が蒼褪せる。手を振りほどこうとするが、彼は放してはくれない。

 扉際で二人は格闘する。

「……口うるさくしないって昼間に」

「これは看過できない!」

 その晩。

 不用心なチゼルは半時ほど説教を受けた。




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― 新着の感想 ―
[一言] タガネっすなぁ( *´艸`) いろいろ無頓着なとことかw タガネだからよかったものが、チゼルではダメな事って あるよねぇ(*´ω`*)
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