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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
三話「境の逃げ宝」上編
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 粗末な平屋に入る。

 タガネは屋内を見回した。

 床板も敷かれず剥き出しの地面と、壁際に置かれた少量の荷物たち。砦の下町とはいえ、わずかな彩りや趣向すらも欠いていた。

 中にいるのは三人。

 少年と、フードで顔を隠す子供、眼鏡の男。

 どれも薄汚れた平服姿だった。

「依頼主のバルフレイ」

 タガネが視線を一人に定める。

「おまえさん、だな?」

「はい」

 少年がきっぱりと認める。

 タガネは懐中から筒状にした紙を取り出す。

 (ひろ)げて中身を三人に見せる。

「改めて。傭兵のタガネという」

 自己紹介をしつつ。

 タガネは依頼を受理するまでの経緯を想起していた。


 ヴリトラ討伐後。

 国の西端で狼煙が上がったと聞き、仕事を求めてそちらに向かっていた。盗賊団の件で得た報奨金で懐は潤っているが、持ち金の余裕云々ではなかった。

 レインで絆された精神の緩み。

 それを矯正(きょうせい)するためにも、戦場の空気に浸るべきだと判断した。

 そんな(おり)

 途中の町で剣鬼宛の書簡が届いた。

 何人もの手を渡って来たそれは、仕事の依頼。

 戦争に挑む意気込みだったので断ることもできたが、依頼主が指定したのは目的地と同じだった。

 詳細は直接説明する。

 そんな猜疑心を誘う文面にタガネは従った。

 話を聞いてからでも遅くはない。

 依頼主のバルフレイに会おうと決断した。

 そして今に至る。


 タガネは書簡を地面に放る。

 その所作に、眼鏡の男の面が険悪になった。

 バルフレイは膝行(いざ)ってタガネの前に移動した。

 そこで正座になって頭を下げる。

「俺はまだ受理していない」

 少年が礼を言うのを先読みして。

 タガネはそれを遮って冷たく告げた。

「内容を聞いてからだ」

「貴様ッ……」

 眼鏡の男が居合い腰になって構える。

 それを少年が伸ばした手で制止した。

 タガネは動じずに観察する。どうやら、一団の中で決定権を有するのはバルフレイらしい。

 フード姿の子供は黙っている。

「では、内容を説明させて下さい」

「ああ」

 少年が目配せした。

 フードの子供が動揺して小さな声を上げる。

 小柄な体に似つかわしくなく奇妙に低い。けれど鼓膜の内に甘い残響を聞かせる声だった。

 タガネは我知らず耳を澄ませる。

「僕の依頼は……」

 少年の声に合わせて。

 子供がフードを取り除いた。隠された顔が晒された。

 つり上がった気の強そうな瞳、小作りな鼻と口が困惑と怯懦(きょうだ)で強張っている。

 これだけならば、ただの町娘である。

 けれど。

 頭の上に。

 獣に似た三角の耳介が動いていた。

「彼女――リンフィアの護衛、です」

 フードから本性を露にした少女。

 タガネは思わず額に手を当てて嘆息する。

「本当、きな臭いな」

「……す、すみません」

 少女が小さな声で謝罪した。





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