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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
後日談、その三
332/1102

小話「魔叩き」序



 大陸西端部で二国が争う。

 長らく和平を結んでいた関係の破綻(はたん)

 一触即発の空気が生まれる。

 近隣諸国を取り囲み、自らの陣営(じんえい)を強化しながら、着々と両国は戦備を整える。

 およそ数百年来の変革。

 そこに戦の臭い、すなわち仕事の臭いを嗅ぎ付けた傭兵たちが挙って集う風潮が広まりつつあった。

 大きな決戦となる。

 数々の猛者がどちらに着くか。

 国々の情勢(かおいろ)を窺いながらうごめく。


 年が明けて十曜を二回り。

 剣呑な二国に最も近い駅は(にぎ)わっていた。

 街道を急ぐ傭兵が雑踏のほとんどを占める。

 蹶然(けつぜん)と諍いの気配が立つ国へ。

 彼らの足運びは、意気込んで大股気味になっていた。季節も相まって食料の買い求めは多く、駅の(たくわ)えも危ぶまれる勢いの売上である。

 その喧騒へと。

 銀髪の少年傭兵もまた加わった。

 黒コートの締めた襟に顎を隠す。

 その騒々しさに内心おどろきつつ、灰色の瞳で街の風景を眺めた。十五の(よわい)の顔は、まだあどけなさが残るが修羅場を知ることを窺わせる空気をまとっている。

 ゆえに。

 ひとたび彼と視線を合わせた者。

 たった刹那の交錯(こうさく)で威圧されて体が強ばる。

 荒れ狂う人波に足を阻まれ、その都度に娼婦や怪しい薬師に()り寄られればなおのこと。

 炯々と光る瞳の鋭さは増すばかり。

 気づけば。

 少年を避けるような流れが作られた。

 露骨な回避に本人も眉をひそめる。

 そこかしこで、細やかな囁き声がする。

「あれって」

「ああ……剣鬼(けんき)だな」

「アイツも参戦するのか」

「オレ、戦いたくねえ」

 畏怖を滲ませる声色。

 剣鬼と呼ばれた少年は舌打(したう)ちする。

 銀髪を指で掻き乱した。

「やれ、目立って仕方ねえ」

 凄腕(すごうで)の傭兵。

 少年は同業者の界隈で有名だった。

 積極的な戦への参加と、その度に凄まじい戦功(せんこう)を挙げ、各国から騎士として叙勲の話が出たり、あるいは要人の家に剣術の指南役として招聘(しょうへい)する整えすら用意される始末。

 今の時代。

 大陸有数の名高い戦士と(うそぶ)かれる。

 だが。

 戦は安住の地を求める旅の路銀稼ぎ。

 そんな剣鬼の内情(ないじょう)を知る者は少ない。

「鬼だな」

「人を殺さなきゃ気が済まねぇって顔だ」

「怖や、こわや」

 偏見(へんけん)ばかりが先立つ。

 戦地での立ち回りなどから鬼と称される。

 本人にすら心当たりの無い噂まで持ち上がり、すっかりと人に敬遠(けいえん)される身になっていた。

 度し難いほどの恐れを含む衆目。

 堪えきれ少年が嘆息した。

「早いが宿を取るかね」

 少年は周囲を見回して。

 自身に(つの)る衆目の中に違和感を見出す。

 すぐ隣で。

 杖を突いて女性が歩く。

 旅支度ではない平服と袈裟袋。

 艶の無い宵闇色(よいやみいろ)の髪の毛先が肩を過ぎたあたりで結われ、長く背中に垂れていた。

 彼女の所作に合わせて踊るそれに視線が惹きつけられた。

 いや、それよりも。

 樫の木から削り出したと思しき杖。

 その石突で路面を幾度か叩いて一歩踏む。

 足場を調べながら進む動作だった。

 少年は盲目(めしい)なのだと察する。

 ところが。

 穏やかに微笑みながら少年を見つめた。

 紫色の眼差(まなざ)しは一点に注がれている。

 まるで、見えているかのようだ。

 あまりにも近い距離。

 話したり触れてくる様子がない。

 ただ、視線だけが露骨だった。

「俺に何か用かい」

「宿をお探しですね」

「……そうだが」

 女性は微笑みを絶やさない。

 少年はその意図を探らんと目を細める。

 正面から見ると。

 異様に瞳が大きく見えた。

 頻りにまばたきする。一度瞼を閉じたと思った一瞬で三度のまばたき。

 よく観察すれば、瞼が閉じきる寸前で目元が痙攣しているとわかる。

「なぜ宿を探してると?」

「そんな顔をしてたので」

「見えるのかい」

「顔は見えませんが、表情は見えます」

「はあ……?」

 首をひねる。

 言葉の意味がわからない。

 女性はその表情も読み取ったのか。

 口元に手を当てて笑う。

「良ければ、我が宿へ」

「おまえさんの宿?」

「ええ」

 しばらく考えて。

 少年は嘆息混じりにうなずいた。

「ちと見てみようかね」

「きっと気に入りますよ」

「さてね」

「私は宿の女将マカトリです」

「……傭兵のタガネだ」

 名を交換し合って。

 二人は宿を目指して歩き出した。




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