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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
二話『剣の小鬼』鋒
321/1102



 変わり始めたと自覚した。


 アヤメの従者としての初任務。

 それをこなした二日後、疲弊した状態で帰還したタガネに、アヤメはいままでの膨れっ面を崩し、満面の笑みで彼に飛びついた。

 マヤはそれを後ろで見守る。

 娘を抱き留めて、タガネは嘆息した。

 銀色の髪を撫でて、マヤを見遣る。

「宴はどうだった?」

「たぶん大丈夫、です」

「ようやった」

 タガネが微笑む。

 それだけで胸がどこか苦しくなった。

 初めて乗った船の上のときと同じである。

 それから。

 タガネとアヤメの戯れは続いた。

 黙って後ろに控えていると、不意にアヤメが彼の胸から顔を上げる。

 不思議そうに目を見開いた。

「マヤもしたいのですか?」

「……?」

「だって、羨ましそうな顔してましたし」

「っ」

 マヤは自身の顔に触れる。

 羨ましいなんて。

 そんなことは微塵も思っていなかった。

 無いものが表情として出るわけがない。

 だが。

 一目瞭然だったらしい。

 タガネが困惑しつつ腕を広げる。

「つまらんと思うぞ?」

「…………」

「遠慮は結構ですよ!」

 そのとき。

 マヤの混乱は頂点に達した。

 会場から持ち帰った物を軽々と超える衝撃に思考回路が停止する。その隙にアヤメに手を引かれ、そのままタガネの腕の中に入った。

 為されるがまま。

 マヤは立ち尽くしている。

 だが。

「どうですか、マヤ!」

「……落ち着き、ます」

「ふふん、でしょう」

 混乱は一瞬だけだった。

 彼の体温に包まれるや、騒いでいた胸の中が静まっていく。身を委ねていたいという一念に駆られる。

 マヤは安堵して体を預けた。

「ちょっと」

「ん、おお」

「おお、じゃないわよ」

 そこへ、マリアが歩み寄る。

「留守を頼んだはずよ」

「ベル爺からの依頼でな、後で話す」

「…………」

 唐突にマリアが両腕を開帳した。

 タガネは小首をかしげる。

 だんだんと躙り寄って来る彼女に身構えた。

 マヤとアヤメからそっと離れる。

 名残を惜しんでマヤは手を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。

「な、なんだい」

「……わからないの?」

「おまえさんもして欲しいって口かい」

「二人に好評みたいだし」

「好評」

「試してみようかしら」

 タガネは顔をしかめる。

 マリアの顔に青筋が浮き出た。

 諦めて、妻と抱擁を交わす。

 タガネには見えていないが、マリアは顔を綻ばせた。背中に回した腕をきつく締める。

 後ろからそれを見つめた。

「夫婦円満、ですよね!」

「……はい」

 マヤは黙って見詰め続けた。

 自分たちのものとは明らかに異なる空気。

 想い合う二人だからこそ醸し出す独特のそれを感じ取った。

 ずくり、とマヤの胸が疼く。

 痛くはないが、苦しかった。


 変わり始めたと、自覚した。





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